選択と誘導の認知科学…山田歩著 内村直之 ファシリテータ 植田一博 アドバイザ

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なぜそうするのか?

評・坂井豊貴 経済学者 慶応大教授

新曜社 1800円
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 ファストフードの店に入って、30分後にそこを出たとしよう。誰かに店を出ろと言われたわけではない。自発的にそうしたのである。だが座っていた椅子の硬さが、平均して30分後に退店したくなるよう、巧妙に設計されていたならどうだろう。それは自発的な選択といえるだろうか。本人は自発的なつもりでも、誘導により起こった選択なのだ。

 こうした選択の誘導は、近年さまざまな分野で注目されている。ものを買わせようとするマーケティング論、賢明な選択をさせようとする行動経済学、誘導と自由とのバランスを危惧する法哲学などは、その例である。それら諸分野では、それぞれの関心に合わせて、選択と誘導の問題が論じられている。その反面として、選択の誘導は学びにくい。断片的な知識は得やすいが、全体像をつかみにくいのだ。

 本書はそのフラストレーションを、わずか176ページで解消する。さまざまな研究成果を手短にまとめ、似たもの同士を一つの章に入れて、全体像を見せてくれる。行動科学の書籍は、ときに面白い話を紹介するだけにとどまりがちだが、本書は一般性ある説明を与えてくれる。

 たとえば冒頭のファストフードの話。なぜ「長時間の席の確保はおやめください」との張り紙は、硬い椅子ほどの効果がないのだろう。それは目的を実現するまでのプロセスが長いからだと著者はいう。張り紙だと、客が張り紙を知覚し、内容を理解し、それに従うかを判断し、さらには行動に移さねば、目的は実現できない。ところが硬い椅子だと、理解と判断のステップがショートカットできる。肉体が座りにくさを感じたら、立ち上がる行動が容易に誘発されるからだ。この説明が分かりやすいのは、「知覚→理解→判断→行動」というプロセスの抽象化が上手うまいからである。全編を通じてそのような本書は、日本認知科学会の監修によるシリーズの一冊。余計な飾りのない、プロならではの作品である。

 ◇やまだ・あゆみ=滋賀県立大講師。実験社会心理学などが専門。著書に『消費者心理学』(分担執筆)など。

無断転載禁止
602951 0 書評 2019/05/26 05:00:00 2019/06/03 10:31:25 (17日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/05/20190525-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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