ひとりで暮らす、ひとりを支える…高橋絵里香著

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北欧の福祉はお手本か

 評・鈴木洋仁(社会学者 東洋大研究助手)

青土社 2000円
青土社 2000円

 福祉先進国の北欧を見習おう。

 そんなお題目を、本書で人類学者がゆるやかに崩してくれる。

 フィンランド南西部の、とある自治体「群島町」での調査を民族誌にまとめた。その名の通り1万個以上の島々や岩礁からなるその町では、人々が水辺に家を建て、海を臨む。

 点在する離れ小島での独居には、書名のような手厚い支援がある。

 たとえば、蘇生措置拒否にサインし、自宅での死の覚悟を決めたとしても施設への入居が許される。24時間体制の緊急通報システムを通じて、オムツをつけた高齢者がトイレ介助を頼んでもとがめられない。森の奥にたたずむ屋敷でのひとり暮らしも、地域ぐるみでケアされる。

 高齢者のわがままにも見える状況を支えている以上、やはり、日本も北欧を目指そうと言いたくなる。

 しかし話は簡単ではない。著者はくぎを刺す。制度は、その土地に根付いた要素とつながっているからだ。

 フィンランドの単身世帯率は41%にのぼる。58%のカップルが第一子出生時で結婚していない。そうした家族の平均がはっきりしない国ゆえに、「親族」の定義も幅広く、行政との協力のもとにケアを行う。

 認知症についても、フィンランドでは、ひとりひとりの記憶の問題と捉え、個人の治療を重視する。

 なるほど、日本でも認知症について地域住民の見守りが求められる。患者となった高齢者の徘徊はいかいを防ごうとする意図が感じられる。ただし、それは患者の行動に焦点を絞る対策にとどまる。

 かといって、著者は日本を声高に批判しない。調査や出産・育児を通して著者が得た確かな手ざわりが、安易な語りを抑え、理想と現実を見分ける視点を読み手に与える。

 老後に二千万円の貯蓄が必要か否か、という論争だけは日本でも盛んなものの、現場の実感に乏しい。

 土地に生きているひとりひとりの手ざわりから、福祉をめぐる、地に足のついた議論が始まる。

 ◇たかはし・えりか=1976年、東京生まれ。千葉大准教授。専門は文化人類学。著書に『老いを歩む人びと』など。

無断転載禁止
700648 0 書評 2019/07/21 05:00:00 2019/07/29 10:06:16 高橋絵里香「ひとりで暮らす、ひとりを支える」=杉本昌大撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190720-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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