古琉球 海洋アジアの輝ける王国…村井章介著

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「日本」観の危うさ指摘

角川選書 2200円
角川選書 2200円

 評・本郷恵子(中世史学者 東京大教授)

 1609年に島津氏に征服される以前の琉球を、「古琉球」と呼ぶ。沖縄学の父として敬愛される伊波普猷いはふゆうが造った言葉だ。1911年刊の彼の代表作『古琉球』は、沖縄の歴史・言語・民俗を探究した記念碑的成果と評価される。本書は、この古典と同じタイトルを冠し、日本中世の対外関係史を研究してきた著者が、歴史学の立場から、あらたな古琉球像を提示するものである。

 著者は、琉球人の起源・琉球の基層文化から説き起こし、沖縄本島に三つの小王国が併存する三山時代を経て、1420年代に中山王国が統一を達成、海洋アジアの中継点として豊かな活動を展開する様相を描く。明・朝鮮・日本との多彩な往来を軸とし、東南アジア諸国をも交易圏におさめて、琉球は莫大ばくだいな富と繁栄を謳歌おうかした。その輝かしい時代を象徴するのが、有名な「万国津梁しんりょうの鐘」だ。1458年に首里城正殿前面に掛けられた大鐘で、「舟楫しゅうしゅう(海船)を以て万国の津梁(かけ橋)とし」という銘文には、世界の結節点たる気概があふれている。

 著者は、私たちの「日本」観の危うさを指摘し、中心と周縁、内と外、あるいは「地域」のような歴史認識を支える概念に疑問を呈する。古琉球を考えるにあたって、絶対必要となる問題意識を鋭く掘り下げる作業が、十分以上に行われている点を明記しなければならないだろう。

 著者は同時に、「古琉球は何たっておもしろい」とも述べる。日本を飛び越して、いきなり世界史につながったり、一方で強固な基層文化を伝えていたりする古琉球の姿は、わくわくする意外性に富んでいる。

 その「おもしろさ」は、古琉球について語る史料の面白さでもある。『おもろさうし』をはじめとする個性的な史料を存分に駆使している点も本書の大きな魅力といえる。

 夏は、沖縄に触れ、沖縄について考える機会の多くなる季節だと思う。ぜひ本書を通じて、理解と共感を深めてほしい。

 ◇むらい・しょうすけ=1949年生まれ。東京大名誉教授。専門は中世史。著書に『中世倭人伝』など。

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700658 0 書評 2019/07/21 05:00:00 2019/07/29 10:08:52 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190720-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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