大坊珈琲店のマニュアル…大坊勝次著

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評・苅部 直(政治学者、東京大教授)

 珈琲コーヒー店では「黙っている人が話していないかというと、そうでもない」。そんな言葉にはっとさせられる。職場や家庭での役割から離れて、一人でカウンターに座っているとき。コーヒーを味わい、ほっとした気分に包まれているなら、その人は心のなかで誰かと話している。それは友人でも、すでに亡い人でも、あるいは自分自身でも。

 惜しまれながら五年前に閉じた、東京・青山の珈琲店の主人がつづった本である。しばしば訪れたわけではないが、そう言えば、車のたくさん通る道に面しているのに、空気が静かな店だったと思う。会話禁止というわけではなく、反対にうるさい気配になることもない。

 客の話をさりげなく引き取ったり、従業員が呼び合うとき、ていねいなサンづけにしたり。そうした細やかな配慮がうみだすものだったと、この本を読んで気づかされる。

 人と人のあいだにある、かすかな隙間をていねいに保つこと。ゆっくりとした時間の流れを大事にすること。美術や演劇をめぐる考察も含めて、本当の意味で自由な精神の動きが伝わってくる。(誠文堂新光社、2800円)

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711917 0 書評 2019/07/28 05:00:00 2019/08/05 10:55:39 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190805-OYT8I50010-T.jpg?type=thumbnail

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