「家族の幸せ」の経済学…山口慎太郎著

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光文社新書 820円
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データから意外な事実

 評・坂井 豊貴(経済学者、慶応大教授)

  形はさまざまあるにせよ、誰もが家族のなかで、育児をされて大人になってゆく。だから大抵の人が、家族や育児について何かしらの一家言をもっている。それゆえこうした事柄をめぐっては、何が正しいのか客観的な判断が難しい。

 本書の著者は、家族や労働を分析する経済学者。計量分析のエキスパートである。家族や育児をめぐる事実を、データを用いてあぶり出してゆく。たとえば母乳育児が子どもの成長に与える効果。これは生後一年間の子どもの健康面には好ましい影響を与えるが、長期的には健康にも知能にも影響しない。母乳育児のメリットは喧伝けんでんされがちだが、過度に気にするのは禁物ということだろう。

 育休については国際比較がなされている。各国を見てみると、一年以内の育休制度は母親の就業におおむねプラス。ところが三年になると、仕事のスキルや習慣が失われ、プラスではなくなる。だから著者は長期の育休には否定的だ。そしてこの論に見られるように、著者は「育休は長いほうが良い」といった耳触りのよい主張を軽々しくしない。あくまでエビデンス(論拠)を丁寧に語るのである。

 意外なのは、日本の男性の育休制度が、ユニセフから一位の評価を得ていることだ。ところが制度は整っていても、キャリアへの悪影響の懸念から、活用が進んでいない。現在ノルウェーでは多くの父親が育休を取っているが、これは兄弟や同僚、とくに上司が育休を取るのを見た者が、自分も取るようになり広まったそうだ。勇気ある小さな影響の連鎖が社会を変えていった例といえよう。

 本書には結婚や離婚についての事実も多く載っている。例えばオフラインで出会う夫婦のほうが同学歴になりやすく、離婚を容易化すると女性の自殺率は下がるのだそう。ときにシビアな内容を含みつつも、著者の視点は一貫して温かく、語り口はやわらかい。

 ◇やまぐち・しんたろう=東京大准教授。専門は「家族の経済学」と労働経済学。本書が初の著書。

無断転載禁止
711926 0 書評 2019/07/28 05:00:00 2019/08/05 10:56:20 「家族の幸せ」の経済学(19日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190727-OYT8I50037-T.jpg?type=thumbnail

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