キュー 上田岳弘著…新潮社 2300円

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◇うえだ・たかひろ=1979年生まれ。2015年『私の恋人』で三島由紀夫賞、19年『ニムロッド』で芥川賞受賞。
◇うえだ・たかひろ=1979年生まれ。2015年『私の恋人』で三島由紀夫賞、19年『ニムロッド』で芥川賞受賞。

途方もない想像力

 評・森 健 ジャーナリスト・専修大非常勤講師

 読んでいる最中、たびたび読み手の想像力を試されているような気分になった。これだけ挑戦的な小説はいつ以来だろうか。

 本作は昨年下半期の芥川賞を受賞した著者による初の長編だ。物語は、オフィスビル街の心療内科医の主人公・立花徹が「等国レヴェラーズ」という組織に拉致されるところから動き出す。「等国」は「権限を分散し続ける」集団だが、彼らには対立する組織「錐国ギムレッツ」がある。こちらは世界の権力を錐体すいたいにするような指向性をもつ集団だ。

 なぜ主人公は拉致されたのか。鍵を握るのが長い間寝たきりだった彼の祖父=立花茂樹の存在だ。祖父は戦前の関東軍作戦参謀だった石原いしわら莞爾かんじと交流があった人物。この祖父が「等国」「錐国」の「世界最終戦争」に関わっていること、それどころか、いまの世界そのものが祖父の頭の中で構成される産物であることが次第に明らかになっていく。

 謎の人物はまだいる。主人公が高校時代に好意をもっていた女性・渡辺恭子や「等国」の男性・武藤。渡辺は前世の自分が広島で原爆に焼かれた記憶をもち、武藤は<個の廃止>を到来させる役目を担っている。複雑な背景をもつ人物は世界のあり方に繰り返し問いを投げかける。

 本書では複数の時代が並行して進む。祖父の戦中戦後、主人公の現代、1人の人物と人造人間だけが暮らす700年後の未来……。ややこしいことに、物語の話者も立花徹から茂樹、渡辺恭子、武藤……と次々に切り替わる。いくつもの謎が伏線として張られながら、登場人物たちが東北のある場所へと集結すると、物語は大きく展開、収斂しゅうれんへとなだれ込んでいく。

 漫然と読むことを許さない創造者の目を行間に感じるが、途方もない想像力に伴走すると著者こそが祖父のような存在にも思えてくる。

 カート・ヴォネガットや村上春樹を連想させる壮大なテーマと緻密ちみつに計算されたプロット。文学の醍醐だいご味を久しぶりに感じさせる作品だ。

無断転載禁止
760867 0 書評 2019/08/25 05:00:00 2019/09/02 10:34:22 「キュー」(15日、本社で)=佐々木紀明撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190824-OYT8I50037-T.jpg?type=thumbnail

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