AI時代の労働の哲学…稲葉振一郎著 講談社選書メチエ 1600円

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◇いなば・しんいちろう=1963年生まれ。明治学院大教授。専門は社会哲学。著書に『「資本」論』など。
◇いなば・しんいちろう=1963年生まれ。明治学院大教授。専門は社会哲学。著書に『「資本」論』など。

人工知能は恐ろしい?

 評・坂井豊貴(経済学者 慶応大教授)

 昨今、AI(人工知能)が人間の仕事を奪うとの論がかまびすしい。だがこの論はいったいどれほど「新しい」のだろうか。そもそも人間社会では、これまでも新たな技術が世に出るたびに、仕事はなくなったり生まれたりしてきた。たとえば自動車の登場は馬車の仕事をなくし、工場やガソリンスタンドでの仕事を生んだ。著者は同様の問いを扱ってきた哲学を手がかりに、我々のいまと未来を理解しようとする。

 経済全体のなかで、AIが人間の仕事を減らしたとしよう。ここで特に問題になるのは、AIによる生産性向上の分配だ。マルクスや、機械の打ちこわし運動を主導したラッドなら、労働者に恩恵が来ることに悲観的だ。AIを所有する資本家が、富の大半を得るだろうからだ。だが著者はここで、消費者としての人間の、「欲望の際限のなさ」に着目する。技術革新が労働者にマイナスだという過去の悲観論は、この人間の能力に打ち負かされてきた。人間は生活水準の向上を求めるので、そこに新たな労働への需要が生まれるのだ。すると総体としては余暇が増え、新しい仕事が生まれ、人間の生活は上昇するかもしれない。著者はマルクスも『経済学批判要綱』でこの点に注目していたと指摘する。人間は遺伝子レベルでは数万年前の先祖と同様でも、新しい技術や製品に合わせて、どんどん生活を変えてゆける生き物なのだ。

 また、AIは決定に至るプロセスが分からない「ブラックボックス」だとの懸念は社会に強い。だが世界中で分業がなされ、「見えざる手」が価格を調整する資本主義経済は、そもそもからして仕組みがブラックボックスである。「風が吹けば桶屋おけやもうかる」ようなことが、常日頃から起こっているのだ。それに慣れきった人間が、いまさらAIを恐れるべきなのだろうか。

 著者は広い見取り図のなかに人間やAIを置いて議論を進める。その立論はすばらしく見通しがよく、瞠目どうもくさせられる。

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831371 0 書評 2019/10/06 05:00:00 2019/10/15 15:00:48 稲葉振一郎「AI時代の労働者の哲学」 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/10/20191005-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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