長寿と画家…河原啓子著 フィルムアート社 1800円

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

最晩年の絵が示す希望

評・宮部みゆき(作家)

◇かわはら・けいこ=青山学院大・立教大兼任講師。アートジャーナリスト、アートドキュメンタリー作家。
◇かわはら・けいこ=青山学院大・立教大兼任講師。アートジャーナリスト、アートドキュメンタリー作家。

 以前この欄で、『晩節の研究』という新書をご紹介した。歴史上の著名人たちの様々な晩年の生き方を追ったこの本を読みながら、いちばん強く「こうなれたら理想だけど、自分には無理だ」と感じたのが、葛飾北斎の晩年だった。89歳で没する直前まで向上心を保って新しい作品を描き続けたのだから、まさに生涯現役である。羨ましいけれど、めったに憧れてはいけない気がする。だって、芸術家の生涯現役に必要なのは身体の健康だけではない。強靱きょうじんな精神、熱い魂、それをコントロールして創作に没入してゆく意思の力。ハードル高すぎだ。

 ところが絵画の世界では、北斎が飛び抜けた例外ではないから驚きである。画家には長生きの人が多いのだ。そんな長寿の画家十五人がそれぞれの最晩年に残した作品を鑑賞しつつ、彼らの生き方を参考に、仕事と人生について考えようというのが本書のコンセプトだ。作品はもちろん美麗なカラーで収録されている。

 全員、巨匠である。ゴヤ(82歳没)、ターナー(76歳)、ドガ(83歳)、モネ(86歳)、ルノワール(78歳)、ムンク(80歳)、マティス(84歳)、ルオー(86歳)、ピカソ(91歳)、シャガール(97歳)。我が国からは北斎のほかに、伊藤若冲(84歳)、横山大観(89歳)、熊谷守一(97歳)、岡本太郎(84歳)、という超豪華な顔ぶれだ。ムンク? あの《叫び》の作者は長生きだったの? と最初は驚くが、本書のページを繰ってムンクの人生をたどり、最晩年の作品《エーケリィの庭での自画像》に描かれている、帽子をかぶったのっぺらぼうの男が身にまとうのほほんとした明るさと、《叫び》の不穏に揺れる描線と切迫した色使いとを見比べてみると、たとえ人間の闇に傷つき苦悩しながらでも、生き続けることで到達し得る幸福と平穏の境地があるのだな、と思えてくる。それは巨匠ならぬ身の私たちにとっても、遠く小さく光る希望の星にならないだろうか。

無断転載・複製を禁じます
842945 0 書評 2019/10/13 05:00:00 2019/10/21 10:49:17 (4日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/10/20191012-OYT8I50071-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
500円400円
参考画像
ランチでご来店のお客様にジェラートをサービス
参考画像
アクティビティご利用でソフトドリンク1本サービス

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ