カルメン/タマンゴ…プロスペール・メリメ著 光文社古典新訳文庫 840円 ■ 奴隷船の世界史…布留川正博著 岩波新書 860円

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「移動する監獄」の歴史

 評・宮下志朗(仏文学者、放送大客員教授)

 奴隷船での叛乱はんらんを描いた名作として、新訳が出たメリメの中編『カルメン/タマンゴ』(工藤庸子訳)の「タマンゴ」をお薦めしたい。仏ナントを出港した奴隷船が、セネガルで黒人の戦士タマンゴから「商品」を仕入れる。ところが、図らずも自分も奴隷にされたタマンゴが叛乱を指揮するという予想外の展開だ。船倉は高さ約1メートルと立てもしないが、船長は、植民地では立ちっぱなしだからとうそぶく。健康維持のため時々甲板で踊らされるが、今で言うエコノミークラス症候群で死ぬ例も多かったらしい。

 「移動する監獄」の奴隷船を中心に据え、西欧の奴隷制度の歴史をたどるのが『奴隷船の世界史』。実は、デフォー『ロビンソン・クルーソー』の主人公も奴隷貿易船でアフリカに向かう途中、孤島に漂着したという挿話から始まる。

 最新研究では、最大の担い手はポルトガル船・ブラジル船で、最大の奴隷貿易港は英リヴァプールや仏ナントでなくリオ・デ・ジャネイロ。船長には、奴隷の自殺を防ぎ、高値でさばく技量が求められた。先住民の激減を補填ほてんすべく、いかに多くアフリカから連行され、サトウキビ(後にコーヒー)栽培に従事させられたことか! 自然死は船主の損失だが、生きたまま海に投げ込めば保険が出る――と奴隷を投げ捨てた「ゾング号事件」、スピルバーグが映画化した「アミスタッド号事件」など有名な事件にも触れる。

 衝撃的なのは、輸送する奴隷は「単位」で数えられ、健康な男を1単位、5~10歳の子供は2分の1などと換算されたこと。奴隷制廃止を訴える不買運動のスローガンにも換算が使われ、「砂糖を一ポンド消費すれば、二オンスの人肉を消費したことになる」と「野蛮」の克服が訴えられた。

 女性・子供が犠牲となる現代の「新奴隷制」への指摘も重い。国際労働機関(ILO)の報告では現代の奴隷は4000万人超で、大西洋奴隷貿易の頃に拉致された数をはるかに上回る。われわれは「野蛮」を脱してはいない。

 ◇Prosper Me´rime´e=1803~70年。仏の作家

 ◇ふるがわ・まさひろ=1950年、奈良生まれ。同志社大教授。

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853856 0 書評 2019/10/20 05:00:00 2019/10/30 13:08:14 「奴隷船の世界史」布留川正博、「カルメン/マタンゴ」メリメ 工藤庸子・訳(11日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/10/20191019-OYT8I50056-T.jpg?type=thumbnail

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