カルメン/タマンゴ…プロスペール・メリメ著 光文社古典新訳文庫 840円 ■ 奴隷船の世界史…布留川正博著 岩波新書 860円
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「移動する監獄」の歴史
評・宮下志朗(仏文学者、放送大客員教授)
奴隷船での
「移動する監獄」の奴隷船を中心に据え、西欧の奴隷制度の歴史をたどるのが『奴隷船の世界史』。実は、デフォー『ロビンソン・クルーソー』の主人公も奴隷貿易船でアフリカに向かう途中、孤島に漂着したという挿話から始まる。
最新研究では、最大の担い手はポルトガル船・ブラジル船で、最大の奴隷貿易港は英リヴァプールや仏ナントでなくリオ・デ・ジャネイロ。船長には、奴隷の自殺を防ぎ、高値で
衝撃的なのは、輸送する奴隷は「単位」で数えられ、健康な男を1単位、5~10歳の子供は2分の1などと換算されたこと。奴隷制廃止を訴える不買運動のスローガンにも換算が使われ、「砂糖を一ポンド消費すれば、二オンスの人肉を消費したことになる」と「野蛮」の克服が訴えられた。
女性・子供が犠牲となる現代の「新奴隷制」への指摘も重い。国際労働機関(ILO)の報告では現代の奴隷は4000万人超で、大西洋奴隷貿易の頃に拉致された数をはるかに上回る。われわれは「野蛮」を脱してはいない。
◇Prosper Me´rime´e=1803~70年。仏の作家
◇ふるがわ・まさひろ=1950年、奈良生まれ。同志社大教授。