道徳的な運 哲学論集 一九七三~一九八〇…バーナード・ウィリアムズ著

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勁草書房 3500円
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選んだ道を引き受ける

 評・山内志朗 倫理学者・慶応大教授

 本書を読んで、映画「ある愛の詩」のセリフ「愛とは決して後悔しないこと」を思い出した。

 著者のウィリアムズは、二〇世紀後半を代表するイギリスの倫理学者で、その濃密な議論はいぶし銀のように光り、心の底に響いてくる。彼は、カント主義や功利主義に反対し、陰影にあふれた我々の倫理的生活を重視する。道徳とは体系的、一元的で理論的なものになりがちだが、本書は豊かな人生を描き出そうとする。

 本書は論文集だ。その中で最も有名なのが「道徳的な運」という論文だ。道徳は自分で制御できる、自由を発揮できる場面に適用されるとするのが伝統的な立場で、運は道徳の外部にあるとされてきた。しかし、著者は、運が人生の善ししに関わることを重視する。様々な意味で「運」は考えられるが、ここでは「道徳的な運」が中心となる。人生の成功と失敗を左右し、そこにる程度自分も関わるものが「道徳的な運」だ。

 妻子を捨ててタヒチに渡った画家ゴーギャンの例で話が進む。彼の成功は家族を捨てた行為を正当化できるのかが問われる。運がゴーギャンの成否を左右するのだ。運と道徳の関係は分からないという見解もあるが、著者は結びつくと考える。そこに「行為者後悔」という独自なものを置き入れる。「自分の人生」を一つにつなぐのは道徳法則でも義務でもなく、自分のものとして引き受けることだ。

 この見通しは、彼が「インテグリティ」を重視することも結びつく。この概念は、全一性とか統合性と訳されるが、「自分らしさ」と私は超訳したい。他の道もあり得たが、私はこの道を自分の人生として選んだ、ということだ。

 「運」と「後悔」、両者は一つながりの人生を作るときに共同し合う。運を引き寄せることも不可能ではない。深く、人生の価値を豊かに考える、熱い思いにちた、待望の倫理学書だ。本当に喜ばしく、胸が躍る。伊勢田哲治監訳。

 ◇Bernard Williams=1929年生まれ。英ケンブリッジ大、米カリフォルニア大教授を歴任。2003年死去。

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890636 0 書評 2019/11/10 05:00:00 2019/11/18 11:00:54 書評 道徳的な運(30日、東京都千代田区で)=川口正峰撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/11/20191109-OYT8I50038-T.jpg?type=thumbnail

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