ナチス 破壊の経済 上・下…アダム・トゥーズ著 みすず書房 各4800円

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従来の常識を次々覆す

評・藤原辰史(農業史研究者、京都大准教授)

◇Adam Tooze=ロンドン生まれ。経済史研究者。英ケンブリッジ大准教授などを経て、米コロンビア大教授。
◇Adam Tooze=ロンドン生まれ。経済史研究者。英ケンブリッジ大准教授などを経て、米コロンビア大教授。

 最近のナチス研究は政策や社会やイデオロギーに関心が集まり、経済は軽視されがちであった。本書はそのナチスの経済史だ。しかも、徹底した経済分析の末に従来の常識が次々にひっくり返る、という驚きに満ちた歴史書である。

 いくつか事例を挙げてみたい。第1に、ヒトラーは各種の雇用創出政策に力を入れて雇用を確保し、失業者をなくした、という神話。たしかに失業者の大幅な減少は否定できないが、1933年から34年にかけての企業の「自然」回復に偶然助けられたとも言える。初期から経済政策で重要視したのは雇用創出よりも、外貨不足の中での強引な再軍備であり、それは必然的に戦争に向かうしか突破口を見出みいだせない綱渡りの経済政策となる。

 第2に、ナチスは「国民ラジオ」や「フォルクスワーゲン」(国民車)など比較的安価な消費財の開発を促進し、卓越した科学技術力で大衆消費社会をある程度実現した、という神話。実はラジオは38年に大都市で7割普及したが、農村部ではまだ贅沢ぜいたく品だったし、フォルクスワーゲンは1台も民衆の手に届かなかった。

 第3に、ハンサムで、総統お抱えの若き建築家シュペーアは、42年には軍需省大臣となりテクノクラート的知性を発揮して、「軍備の奇跡」をもたらした、という神話。彼はニュルンベルク裁判で、自分は非政治的であってナチスの残虐とは関係なかったという自己演出に成功したが、実は、「軍備の奇跡」も、統計をいじったり、プロパガンダであおったりして、国民に見せた虚像であった。戦争の終盤ではヒトラーを狂信して死者を無駄に増やした。大量虐殺の共謀者だったことも否定できない。

 海軍力の英国、生産力のソ連、そして覇権を握った米国。脆弱ぜいじゃくな基盤の上で、その場しのぎの政策を繰り返しつつ国際社会に挑む姿は、従来の強烈すぎたナチス像を相対化し、他国との比較へと読者を誘う。山形浩生・森本正史訳。

<注>原題はThe Wages of Destruction

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914574 0 書評 2019/11/24 05:00:00 2019/12/02 10:30:15 ナチス 破壊の経済(15日午後10時46分)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/11/20191123-OYT8I50035-T.jpg?type=thumbnail

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