シリア 震える橋を渡って…ウェンディ・パールマン著

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凄惨な内戦の実態

評・篠田英朗(国際政治学者、東京外国語大教授)

岩波書店 3200円
岩波書店 3200円

 終わりなき凄惨せいさんなシリアの内戦は、現代世界で最悪の被害をもたらしている。紛争の直接被害者だけではない。大量の難民たちが、欧州などに、大きな波紋をもたらした。

 本書は、シリアを研究する米国の大学教員が、シリア人たちから聞き取った内容をまとめて1冊に仕上げた労作である。アサド政権に批判的な立場に立つ人々の声が多く集められているが、客観性は保たれており、真摯しんしな内容である。

 勇気を持ち自由を求めて反政府デモに参加した人々の高揚感。民主化の叫びが泥沼の内戦へと至ってしまった失望感。理想を持って武器を取りながら戦争に幻滅していく焦燥感。全てを捨てて新しい国で暮らす不安感。それらが、赤裸々な言葉遣いで、次々とつづられていく。

 シリアの状況は、他の紛争地と比べれば、まだ日本に伝わってきているほうだろう。だがそれでも、「自分の住んでいる地域が、まるでヒロシマのようになってしまった状況を想像できるでしょうか? 全てが破壊されているのです」、と語り続けるシリア人たちの様子を知る機会は、日本ではまだ乏しい。本書は、生々しいシリア人たちの思いを知ることができる貴重な書だ。

 本書に登場するシリア人たちは、シリアを取り囲む国際情勢の解説などはしない。ただ生活者の観点から、シリアを語る。シリアという国への思い、自分たちの友人や家族への思いを語る。

 廃墟はいきょとなった病院で、頭に銃撃を受けて入院していた父の元を離れない少年は、しかし押し入ってきた軍隊に無残にも一瞬で殺される。それを、こっそり身をひそめながら見守る住人たちは、自らに問いかける。「なぜ私は死んでいないのだ?」

 本書の読者も、同じ問いを自らに投げかけ始めるかもしれない。なぜ自分だけが平和に生きているのか? ある意味で、哲学的な洞察に満ちた一書である。

 安田菜津紀、佐藤慧訳。

 ◇Wendy Pearlman=米ノースウェスタン大教授。レバノンやガザ地区など、アラブ世界で20年以上調査。

<注>原題はWe Crossed a Bridge and It Trembled

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914581 0 書評 2019/11/24 05:00:00 2019/12/02 10:30:45 シリア 震える橋を渡って(15日午後10時44分)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/11/20191123-OYT8I50037-T.jpg?type=thumbnail

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