赤い髪の女…オルハン・パムク著 早川書房 2300円

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変貌する都市に神話重ね

評・鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

◇Orhan Pamuk=1952年、イスタンブール生まれ。2006年にノーベル文学賞。著書に『わたしの名は赤』『雪』。
◇Orhan Pamuk=1952年、イスタンブール生まれ。2006年にノーベル文学賞。著書に『わたしの名は赤』『雪』。

 敗戦後すぐ、進駐軍がすべてを仕切っていた横浜の中心部に生まれ育った私が、パムクの長編小説に引き込まれるのは、大戦後、人口500万人から1500万人の大都市に変貌へんぼうを続けたイスタンブールで生きた主人公と、高度成長期に生きた自分の記憶が重なるからだろうか。

 本書もイスタンブールで、主人公が成長し、社会人となり、事業家として成功する姿をたどるが、通奏低音のように響く主題は、不幸な偶然から父を殺し、母をめとってしまうソフォクレスの『オイディプス王』と、稀代きだいの勇者ロスタムが我が子ソフラーブを殺す『王書』。二つの対照的な父と子の物語から離れることはない。一方は父を殺し、他方は子を殺す。主人公はこのテーマに関する資料を渉猟し続ける。

 主人公の父親は反体制の政治活動を続け、家業の薬局を追われた。幾ばくかの収入を得ようと井戸掘りの親方に雇われた少年は、辺鄙へんぴな場所で過酷な肉体労働に日々を費やす。すさんだこの地にも劇団があり、主役であった「赤い髪の女」に少年は魅せられ、疲れ切った夜、激しく結ばれる。少年は17歳、女は33歳である。翌日、井戸掘りの現場で事故がある。少年は恐怖に襲われ、親方を深い穴に置いたまま、逃げるように母親のもとに戻る。

 やがて主人公は地質調査技師となり、イスタンブールが膨張する時代に、不動産開発事業によって大企業を育てる。新しい開発案件が、かつて井戸を掘った場所に持ち上がり、その地を訪れる。因縁の地での、思いもしなかった、それも深刻な対面によって、物語は一気にクライマックスを迎える。

 パムクの作品にしては粗削りだが、ひと息に読まされる魅力がある。トルコという、ギリシャ、バルカン半島、ハプスブルク家を始めヨーロッパとの緊張関係が続いた東西文明の境界の地を舞台にしていればこそ、読み手に訴えかけてくる小説である。宮下遼訳。

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914590 0 書評 2019/11/24 05:00:00 2019/12/02 10:29:34 書評用、「赤い髪の女」(18日午後4時)=冨田大介撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/11/20191123-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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