完了しました
拒絶と受容の実態描く
評・森健(ジャーナリスト 専修大非常勤講師)

障害者への理解は近年広がってきたように思う。それでも、自らが親として障害の子をもつとなると、戸惑う人は少なくないだろう。本書の著者は小児外科医として長く臨床の場で障害のある子やその親と向き合ってきた経験がある。本書ではその数多くの経験から障害や重篤な疾患に対する拒絶や受容のあり方を描いた。
双子の赤ちゃんが生まれた。一人は死産、もう一人は腹壁破裂という状態で小腸が体外に出ていた。著者は手術で腹壁を治したが、赤ちゃんの父親は「人工呼吸器から外してください」と告げた。わが子の両手足の指が6本ずつだったからだ。しかし、母親がわが子を見て涙とともに受け入れると、父親も受容していった。
脊椎の異常で脊髄神経が飛び出ているうえ、水頭症で脳が水のようになっている赤ちゃん。手術が成功しても自発的な呼吸すら難しい。事実を告げても父親は涙を流し、治療を望んだ。著者らは大手術を試みる。赤ちゃんは2か月間、懸命に生きたという。著者は記す。
「どれほど重篤でも親の愛情はどこまでも深いものだと、私は痛切に感じました」
一方で奇形や障害を受け入れない人もいる。著者の懸命な説得にもかかわらず、ある親は手術を承諾しない。赤ちゃんの泣き声は日に日に小さくなっていったという。
長年の経験から、受容は「あきらめ」に始まり、「容認」「克服」「承認」と変化していくと著者は指摘する。その上で、昨今広がる「新型出生前診断」のありように疑問を示す。専門家の指導もなく、近所のクリニックで行われるようになると、障害の実情なども知らないまま、安易な人工妊娠中絶が増え、「倫理観のバランスも崩れていく心配」があるためだ。
読売新聞社が運営するヨミドクターなどに掲載され、1億ページビュー以上も読まれた人気連載に加筆された。まとまって読むと、幼い命を