丸山真男と戦後民主主義…清水靖久著 北海道大学出版会 2900円

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思想家の真実と虚像

評・苅部 直(政治学者 東京大教授)

◇しみず・やすひさ=1954年、広島県生まれ。九州大教授(日本政治思想史)。著書に『野生の信徒 木下尚江』。
◇しみず・やすひさ=1954年、広島県生まれ。九州大教授(日本政治思想史)。著書に『野生の信徒 木下尚江』。

 「大日本帝国の『実在』よりも戦後民主主義の『虚妄』の方に賭ける」。政治学者、丸山真男が一九六四年に著書のあとがきに記した文句である。本書で清水靖久が指摘するところによれば、この一言をきっかけにして、丸山は「戦後民主主義」の代表的な論客として扱われるようになった。

 しかしこの言葉、考えてみると意味がよくわからない。「虚妄」と当の本人が言ってしまっていいのか。いったい何に「賭ける」のか。よく引用される丸山の発言は数多いが、その理解が一人歩きをして、それこそ虚像を作りあげてしまう場合もある。「戦後民主主義」という言葉にしても、丸山自身が口にした例は、実はごくわずかなのである。

 本書は、東京女子大学所蔵の関係資料などを幅ひろく分析し、関係者への聞き取りも行って、終戦から一九六〇年代末までの生涯を検証している。冒頭の発言にしても、残された草稿を見ると、「占領民主主義」といった「神話」が安易に語られてしまうことへの批判意識と、戦後に登場した「人民主権と平和憲法」を自分は堅く信じるという宣言とを、圧縮して言い表したものだった。

 大学紛争のさい、研究棟を封鎖する学生にむかって丸山が「ファシストもやらなかった」と批判したという有名な事件についても、きわめて詳細な検討を通じて、真実に迫っている。それは丸山からすれば、価値評価を含まない、事実の指摘にすぎなかったが、発言が報道され論評されるうちに、大学の権威の擁護者というイメージがふくらんでゆく。

 しかし同時に、丸山が反乱学生からの問いかけを受けとめず、戦中期の日本人と同じような「集団的ムード」への同調としかとらえなかったことについて、清水の評価はきびしい。「戦後民主主義」の現実ではなく、民主主義そのものの理念に賭けようとした思想家の栄光とつまづき。その両者から学ぼうとする真剣な意志が、本の全体を貫いている。

無断転載禁止
996290 0 書評 2020/01/12 05:00:00 2020/01/20 10:52:13 (20日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200111-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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