キッドの運命…中島京子著 集英社 1500円

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近未来は便利で怖い?

 評・南沢奈央(女優)

◇なかじま・きょうこ=1964年、東京生まれ。作家。著書に『小さいおうち』『長いお別れ』など。
◇なかじま・きょうこ=1964年、東京生まれ。作家。著書に『小さいおうち』『長いお別れ』など。

 「初めまして」。私が声を掛けたのは、ゴッホの左耳だ。自分で切り落としたとされる左耳が、子孫のDNAを基に再現されている。しかも音に反応する仕掛けもある。このバイオアート作品を目の当たりにして考えた。いつか、ゴッホ本人が復活する日も遠くないのでは……?

 ここまで来ると、怖いと思う人は少なくないだろう。だがそれは、「今」だけかもしれない。これまでも新しい技術が出るたびに、初めは抵抗を感じ、普及してくると慣れてきて、やがて当たり前のものとなってきた。この繰り返しで、社会に様々な技術が定着し、便利で快適な暮らしが実現されるのだ。

 本書は、現在ではまだ抵抗を感じる技術が、既に当たり前となっている近未来を描いた連作短編集だ。たとえば、「汎用はんよう人工知能」に対する大量破壊の暴動が起きるほど、人間を上回る知性を持つAIが浸透していたり、はたまた、寿司すし屋のネタが昆虫から作った人工魚肉になっているほど、ほとんどが人工食材になっていたりする。他にも、予期せぬ妊娠が「古めかしくも野蛮な事態」と思われるほど、人工子宮に外注するのが主流になっている世の中。

 私が生きている間にまさに現実となる可能性は、十分にある。現時点でも、AIは囲碁で人間を負かし、車を運転し、家では人と会話する。栄養価の高いコオロギスナックは売られているし、人工子宮で胎児を発育させることはヒツジで成功している。

 6へんを通して様々な角度から、変容した社会や価値観を見ていくと、得るものの背後に失うものも浮き彫りになる。同時に、変わらないものにも気付く。失敗して悩むとか、美味おいしいものに感動するとか、親心が芽生えるとか。「怖い」という感情もそう。私たちの、人間味だ。

 この些細ささいな人間味が、未来をひらくために重要なカギになるかもしれない。だからきっと、この先も問い続ける。生きるとは、人間とは何か。

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996302 0 書評 2020/01/12 05:00:00 2020/01/20 10:53:16 (20日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200111-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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