女たちのシベリア抑留…小柳ちひろ著 文芸春秋 1700円

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語られ始めた重い過去

 評・加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

◇こやなぎ・ちひろ=1976年生まれ。ドキュメンタリーディレクター。戦争と女性をテーマにした作品が多い。
◇こやなぎ・ちひろ=1976年生まれ。ドキュメンタリーディレクター。戦争と女性をテーマにした作品が多い。

 今年は戦後75年。5年前の戦後70年は戦争体験者の激減を実感させられたが、一方でその年の前後から、これまで正面から取り上げられてこなかった戦争と女性の問題が注目されるようになった。戦争体験の主役は前線で戦った男性、女性はもっぱら「銃後」の脇役扱いされてきたが、彼女たちが自らの苛酷かこくな体験を少しずつ語り出したのである。

 このような転機になった一つが、2014年8月にNHKBS1で放映された同名のドキュメンタリーだ。本書はそれが基になっている。

 あまりにも重い体験は、軽々に語られるものではない。70年近くたなければ語られなかった女性たちの体験は、「労苦」では片付けられない戦争の冷酷な現実そのものだった。

 放映から5年もかかって刊行されたが、放映されなかった証言、その後の取材で明らかになった事実も含めて大幅に書き加えられたことで、ルポルタージュとして完成度が高まった。

 日赤看護婦から開拓団員の妻、女学生、さらには芸者にいたるまでさまざまな女性たちが、北極圏から中央アジアにいたる広大なソ連領内で抑留され、医療や事務仕事ばかりでなくスパイ罪によって極寒の地で重労働を科せられていた事実、帰国できた者と命を落とした者、「日本にかえろうとわおもっておりません」とソ連にとどまらざるをえなかった「アーニャ」の数奇な人生、そして、彼女たちを翻弄ほんろうしたソ連の抑留システムの非人間性、これらの事実を女性たちの細やかな観察眼による証言と無機質な公式記録を紡ぎ合わせながら、丹念に描き出すことに成功している。本人たちの肉声を伝えるドキュメンタリーと合わせて、シベリア抑留史の貴重な記録といえよう。

 シベリア抑留者も激減し、社会的関心も低下、昨年は抑留死亡者の遺骨収集の杜撰ずさんさが明らかになった。本書は、私たちがシベリア抑留をもう一度見つめ直す切っ掛けとなるであろう。

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996305 0 書評 2020/01/12 05:00:00 2020/01/20 10:53:36 (20日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200111-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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