ナウシカ考 風の谷の黙示録…赤坂憲雄著 岩波書店 2200円

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新たな「古典」の誕生

評・栩木伸明(アイルランド文学者 早稲田大教授)

◇あかさか・のりお=1953年、東京都生まれ。学習院大教授。専門は民俗学・日本文化論。
◇あかさか・のりお=1953年、東京都生まれ。学習院大教授。専門は民俗学・日本文化論。

 アニメ映画『風の谷のナウシカ』(1984年劇場公開)は多くの人の無意識にすみついている。ぼくなどもナウシカと聞いただけで、シーンや音楽が回りはじめる。監督の宮崎駿は映画を公開する前からマンガ版を書きはじめ、94年に全7巻を完結させた。マンガ版を「バイブル」のように読み込んだ世代もあると聞く。

 民俗学と日本文化論で知られる赤坂憲雄は長年、宮崎駿のマンガや映画に親しみ、大学の授業でもとりあげてきた。本書は、マンガ版『風の谷のナウシカ』を思想書として読解するためのノートから生まれた研究書だ。ぼくは正月休みに7巻の原典を参照しながら精読し、考えながらマンガとつきあう醍醐だいご味を楽しんだ。

 ナウシカは変容するヒロインである。巨大産業文明が滅びた後の「永いたそがれの時代」に、族長の娘として生まれた彼女は、敵対しあう部族や国家の境界を越え、異質なもの同士をつなぐ媒介者へと成長する。母の愛を受けなかった彼女は自らが母を演じ、混沌こんとんを抱えながら鎮める力と荒ぶる力をふるう存在になるのだ。

 『ナウシカ』は難解なマンガである。だが、赤坂が差し出す手堅い解釈にしばしば助けられ、「そういうことだったのか!」と得心しつつ、全7巻を制覇した。やがて見えてくるのは、敵と味方を安易に分けようとする二元論に潜むわなをするどく察知し、あてがわれた未来を拒み、運命を自分で決めようとするナウシカの姿である。赤坂はこのマンガを、世界の終わりを描く黙示文学の系譜の中に位置づけた上で、その流れにあらがう「反アポカリプス」だと結論づける。

 本書を読み終えたとき、「古典」ということばが頭に浮かんだ。繰り返し読まれるテクストは、毎回違う姿を読者に見せることによって、読者を成長させる。他方、その同じテクストは、読者によって繰り返し論じられることで「古典」へと成長していく。どうやら、『ナウシカ』という名の「古典」が生まれかけているらしい。

無断転載禁止
1007037 0 書評 2020/01/19 05:00:00 2020/01/27 10:26:36 ナウシカ考(10日、読売新聞東京本社で)=稲垣政則撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200118-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

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