スピノザ<触発の思考>…浅野俊哉著

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歪みや偏り映す水晶玉

評・山内志朗(倫理学者、慶応大教授)

明石書店 3000円
明石書店 3000円

 スピノザはいつも新鮮な哲学者だ。汎神論はんしんろん、無神論、唯物論など、様々な解釈が与えられてきた。彼はユダヤ的伝統からもキリスト教社会からも隔絶した思想を展開した。その考えは思想史上の「異物」として紹介されてきた。だが、今でも多くの発見と気づきを与えてくれる。

 著者は、スピノザの政治哲学に視座を据え、『エチカ』中心でしか捉えない誤りを強調する。なるほど、「永遠の相の下に」物事を見、「神即自然」を基本とすると政治哲学に目が届きにくくなる。

 本書では、軽視されてきた政治学的側面からスピノザが読み解かれる。ニーチェ、レオ・シュトラウス、アドルノなど、第二次大戦前後に活躍した思想家を中心に七人のスピノザ論が紹介されている。

 スピノザの思想は、「そこに姿を映した者が、自らのゆがみや偏り、あるいは秘してきたものを大写しで見させられる、精巧に磨き上げられた水晶玉」だと著者は述べる。

 彼らの見るスピノザは様々であり、彼らのスピノザ解釈そのものが彼らの写し絵になっている。本書では、スピノザの政治思想が紹介されるとともに、様々なスピノザ理解を通しての政治的思想の姿が現れてくる。三〇〇年前のスピノザが多面的に輝いてくる。

 多くの政治哲学者たちが、スピノザを一部分評価しながらも、乗り越えられるべき思想家として整理してきた。自分の思想の立ち位置を確認するための基準点になっている。

 シュトラウスとスピノザの関係が特に面白い。ユダヤの伝統に根ざすシュトラウスはスピノザを激しく弾劾だんがいする。シュトラウスは、「公教的教え」と「秘教的教え」という二重の意味の戦略を重視し、二枚舌、「高貴なるうそ」こそ政治の鍵だと考えた。貴族制と民主制など、シュトラウスとスピノザは様々に対立する様子がスリリングに描写されている。スピノザの多面性とその魅力が浮かび上がる本だ。

 ◇あさの・としや=1962年生まれ。関東学院大学大学院法学研究科教授。専門は政治哲学、社会思想史。

無断転載禁止
1019879 0 書評 2020/01/26 05:00:00 2020/02/03 11:33:28 スピノザ(10日、読売新聞東京本社で)=稲垣政則撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200125-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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