マツタケ 不確定な時代を生きる術 The Mushroom at the End of the World アナ・チン著

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変幻自在のネットワーク

 評・三中信宏(進化生物学者)

みすず書房 4500円 
みすず書房 4500円 

 『マツタケ』というメインタイトルと『南方熊楠菌類図譜』風のカバージャケット図柄だけを見て手に取った読者の多くはきっと面食らうだろう。本書は一言でいえば「マツタケを主題とする文化人類学的変奏曲集」だ。ライトモティーフとしての“マツタケ”はさまざまな姿かたちをとって変幻自在の演技を見せる。予定調和的な筋書きや結末はいっさいなく、読み手のバックグラウンドによって読後感が大きく異なるかもしれない不思議な本だ。

 この本に登場する“マツタケ”は、単に生きものとしての菌類というだけではなく、直喩・隠喩・換喩などさまざまなレトリックを通じてひとつの概念ネットワークを形成している。本書で主役を張る“マツタケ”の姿形のとらえどころの「なさ」はあえて著者が狙ってきたものだと気づくまでには時間がかかった。

 著者が主宰する「マツタケ世界研究会」によるオレゴン(アメリカ)、フィンランド、雲南(中国)、そして日本での具体的研究を踏まえ、“マツタケ”が出現する場はつねに“周縁的”であると著者は言う。現代資本主義による環境の破壊と収奪がもたらす不安定かつ不確定な「スケーラブル(規格不変)ではない」周縁的環境はむしろ未来へと広がる可能性をはらんでいると著者は主張する。スケーラブルではない不確定性は、多くの生きもの(ヒトも必然的にそこに組み込まれる)の群集から成る生態系ネットワークの特性だろう。人為が加わる不安定な生態系の実例として、現代日本のマツタケ狩りと里山保全活動が詳細に論じられている。

 “マツタケ”から大きく広がるネットワークは、現代経済・世界地理・国際政治・難民問題・民族差別・分子系統・菌類分類・保全生態・森林政策など想像を超える幅広い分野をカバーしている。だから、読者の関心がどれほど多様であっても、おもしろく感じる章がきっとあるだろう。時代は“マツタケ”だ。赤嶺淳訳。

 ◇Anna Tsing=米カリフォルニア大サンタクルス校文化人類学科教授。専門はフェミニズム研究・環境人類学。

無断転載禁止
1031973 0 書評 2020/02/02 05:00:00 2020/02/02 05:00:00 書評(24日、読売新聞東京本社で)=稲垣政則撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200201-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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