事を成すには、狂であれ 福井保明著 プレジデント社 2000円

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◇ふくい・やすあき=1952年生まれ。76年に野村証券に入社。同社取締役や野村不動産投資顧問社長を歴任。
◇ふくい・やすあき=1952年生まれ。76年に野村証券に入社。同社取締役や野村不動産投資顧問社長を歴任。

 評・稲野和利(ふるさと財団理事長)

 いつの時代であっても、その後発展することになる企業の創業者というものは一種独特の個性を有しており、常人の感性が及ばないところにその本質がある。本書は、野村證券の創業者二代目野村徳七の生涯を描いた小説であり、徳七の真骨頂は「狂」という言葉に集約される。

 誠実・愚直で融通の利かない初代野村徳七と武士気質かたぎで信仰心のあつい妻タキは下積みの苦労を重ねてついに、零細両替商である野村商店を創業する。明治11年(1878年)に長男として生を受けた二代目徳七は、常識や慣習とは無縁の男である。喧嘩けんかで高校を放校になるなど逸話には事欠かない。それでも何とか野村商店を継承した徳七は弟実三郎とともに近代的陣容への脱皮を図っていく。早耳情報や罫線けいせんが重用される時代にあって、「株式は科学や」と断言し、調査部を設立する。公社債に注力する。社員の研修重視や女性事務員の採用など先見事例は枚挙にいとまがない。業界標準の何十年も先を行く施策は、他者からは「狂」と見えたかもしれない。一方で明治・大正・昭和初期それぞれの時代の株式市場を舞台にした生涯3回の仕手戦では、全財産を抵当に入れて大勝負を展開、ことごとく勝利する。これは誰がどう見ても「狂」であろう。巨万の富を成した徳七は様々な事業への進出を図り、財閥形成に邁進まいしんしていく。

 本書は小説という表現手法を採用したことに加え、徳七直系の孫である野村明賢はるかた氏の直截ちょくせつ的語り口のインタビューを収録したことにより、人物の本質に鋭く迫りえたのではないかと感じる。徳七が後に社長となる奥村綱雄に発した「危険を恐れず前に出て猛進するんや」という言葉が重く響く。今、停滞する現代日本の経済社会においてこそ「狂」とも表現されるエネルギーが必要とされているのかもしれない。

 著者は野村證券の元役員。かつての同僚でもある評者は、長い「あとがき」を読み、少し胸を熱くした。

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1067228 0 書評 2020/02/23 05:00:00 2020/03/02 10:26:03 事を成すには、狂であれ https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200222-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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