死を招くファッション 服飾とテクノロジーの危険な関係 Fashion Victims:The Dangers of Dress Past and Present アリソン・マシューズ・デーヴィッド著 化学同人 3500円

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現在も進行形の恐怖

◇Alison Matthews David=カナダ・トロントにあるライアソン大ファッション大学院准教授。
◇Alison Matthews David=カナダ・トロントにあるライアソン大ファッション大学院准教授。

 評・宮部みゆき(作家)

 本書には様々な写真や図版が掲載されているが、99ページの美しいドレスを見たとき、思い出したのは映画『風と共に去りぬ』の園遊会でスカーレット・オハラが着ていたドレスである。あれも「ヒ素グリーン」だったのだろうか。装う女性ばかりか、ダンスのお相手の男性の命までも危険にさらす猛毒のドレス。

 19世紀から20世紀前半にかけてめざましく発達し、次々と世の中を変えていった科学技術は、美と装いの領域でも多彩な変化を起こした。新しい技術による革新的ファッション。ならば当然、良い方向の変化でしょう? いえいえ、とんでもない。たとえば水銀を含んだ帽子。毒性の強い合成染料で染められた布地を用いた花冠やドレス。美しい緑色は、カリウムと白砒素ひそを混ぜて硫酸銅溶液に注いで作られるシェーレグリーン。鮮やかな紫色のバイオレットやマジェンタは、有毒化学物質のベンゼンを原料とするアニリン染料が作り出す色だ。これらの毒物は、出来上がった帽子をかぶり、ドレスを身にまとう富裕な男女たちの前に、布や革を素手で扱う職人やお針子たちの命も削っている。

 第5章「絡まる、窒息する――機械に巻き込まれる事故」、第6章「炎に包まれる生地――燃え上がるチュチュと可燃性ペチコート」と読み進むと、半端なホラー小説よりも恐ろしい。機械編みのレース「ボビネット」は、繊細な布でお洒落しゃれをしたいと願う多くの女性たちを、地獄の業火であぶってきた。鼈甲べっこうよりもはるかに安価できれいなセルロイドのくしもまた悪魔の魂のように燃えやすく、莫大ばくだいな利益を生み出す人工シルクは、製造工程の化学処理で労働者の健康被害を引き起こす。

 ファッションが死を招く。これはけっして過去のお話ではない。デニムのジーンズをくたびれた風合いにする(ブラスト加工)作業者たちが肺に損傷を受ける等、現在進行形なのだ。安部恵子訳。

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1067231 0 書評 2020/02/23 05:00:00 2020/03/02 10:26:03 死を招くファッション https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200222-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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