草地は緑に輝いて アンナ・カヴァン著 文遊社 2500円

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◇Anna Kavan=作家。1901年、仏在住の英国人の両親のもとに生まれる。長編に『氷』。68年没。
◇Anna Kavan=作家。1901年、仏在住の英国人の両親のもとに生まれる。長編に『氷』。68年没。

夢想でつながる世界

 評・村田沙耶香(作家)

 子供の頃、夢の世界に閉じこもりがちだった私は、「現実を見ないとだめだよ」とよく注意された。私は「現実」とは、「個」を出て他の人間たちと出会い、関係を築き、つながる、広場のような場所だと感じていた。

 だがアンナ・カヴァンの小説を読んでいると、そうした世界の構造が揺らいでいく。私たちは、もしかしたら無意識の世界でこそ繋がっているのではないかと思わされる。

 『草地は緑に輝いて』には、アンナ・カヴァンによる13編の小説がおさめられている。旅先で出会う不思議な草地の中に見たもの。10歳で施設から引き取られることになった少女の感情が破裂する瞬間。物寂しい街の泉を訪れ、そこに突如広がる光景。「ハイシティ」で暮らすことになった少年の運命。随筆に近いものから、幻想的、SF的なものまで様々だが、どれもそうした分類を飛び越えてしまうほど、アンナ・カヴァンの世界だ、と感じさせる。SF的な設定から広がっていく光景にも驚くほどの細部があり、映像としてみれば現実のささやかな光景であるはずのものに、永遠にこの中を揺蕩たゆたっていたい、と思わせるほどの夢想が宿っている。

 最後の晩餐ばんさんに何を食べるか、みんなで想像して盛り上がることがあるが、もし最後の小説に何を読むか、と聞かれたら、自分はこの本を選ぶかもしれない。この本の中にある言葉でしか感じられない、不可解な安らぎは、それほどに魅惑的なのだ。人間の無意識が繋がっているとして、その一番奥に進んでいくと、この小説の中に辿たどり着くのではないだろうか、とすら思う。

 この本を読んだあと、「現実」と夢想は溶け合い、そこに本当に境界があるのかわからなくなってくる。そういえば現実も、誰かの夢想からできたものの集合体だった、と知らなかったはずのことを思い出してしまう。読む前の世界には戻れない。そのことがとてつもなく心地よい、危険で大切な一冊なのだ。安野玲訳。

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1093827 0 書評 2020/03/08 05:00:00 2020/03/16 16:44:23 アンナ・カヴァン「草地は緑に輝いて」(22日)=杉本昌大撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/03/20200307-OYT8I50078-T.jpg?type=thumbnail

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