ゆかいな珍名踏切 今尾恵介著

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刻まれた土地の歴史

 評・飯間浩明(国語辞典編纂(へんさん)者)

朝日新書 810円
朝日新書 810円

 まず驚くのは、踏切の一つ一つに名前があること。私鉄の踏切は「駅名プラス第○号」などの表示が多いようですが、JRの踏切にはもっと具体的な名前がついています。

 その名づけ方もさまざまです。地名によるものもあれば、道の名がついたもの、施設名にちなむもの、はては人名らしきものや、一見して分かりにくいものも。「馬鹿曲ばかまがり踏切」「レコード館踏切」「洗濯場踏切」、さらには「爆発踏切」など。

 それらの踏切名の多くは昔から使われています。つまり、そこに土地の歴史が刻まれているということです。踏切名は知られざる歴史資料なんですね。「面白本」ふうの書名とは裏腹に、著者は踏切名を手がかりとして、土地の歴史を地道に考察していきます。

 著者の手法は、ともかく現地を調査すること。北海道から鹿児島まで、現場を踏み、地元の人に尋ね、土地の図書館を訪れます。地元の人が「20年前」と証言しても、実際には30年前、40年前の古い話だった、という事例に何度となく出合うのも面白いところです。

 「馬鹿曲」(三重県)は、馬鹿馬鹿しいほど大きく迂回うかいして通る谷間の道にありました。「レコード館」(静岡県)は、トーキー映画をうたった上映館の名前だったらしい。「洗濯場」(愛知県)には、草むした洗濯場(奥さんたちの社交場だったか)が残っていました。

 そして、「爆発踏切」。終戦直後、福岡県の二又トンネルで起こった火薬爆発事故を伝える名前です。米軍の不始末が原因で、死者百数十人、負傷者も多数出した大事故。報道管制のため、ろくに報道されなかったというこの大惨事が、踏切の名前に記録されています。

 踏切はいずれ廃止されるべき施設なのに、その名前が貴重な史料というのは皮肉です。著者の案内で、知られざる踏切名から、忘れ去られた土地の記憶を共にたどることができたのは、得がたい体験でした。

 ◇いまお・けいすけ=1959年、神奈川県生まれ。地図研究家。著書に『地図帳の深読み』など。

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1134534 0 書評 2020/03/29 05:00:00 2020/04/08 10:07:43 書評(21日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/03/20200328-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

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