国家・企業・通貨 グローバリズムの不都合な未来 岩村充著 新潮選書 1400円

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中央銀行の常識を疑う

 評・稲野和利(ふるさと財団理事長)

◇いわむら・みつる=1950年東京都生まれ。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、98年より早稲田大教授。
◇いわむら・みつる=1950年東京都生まれ。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、98年より早稲田大教授。

 話題を呼んだ、2010年の『貨幣進化論』、16年の『中央銀行が終わる日』に続いて刊行された本書は三部作の完結編という位置づけだが、単独で読むことに問題はない。

 本書の問題意識は、先進国社会における中間層崩壊への危惧を起点とする。19世紀に先進国で確立した国民国家と株式会社及び中央銀行による通貨発行独占という仕組みの3点セットはその後の経済発展を支えたが、グローバリズムの中でその関係性は変容を迫られてきた。国家による、法人税引き下げに代表される「底辺への競争」は、結果的に富の再分配機能を弱体化させることになる。あたかも国家のような存在となったグローバル企業はデジタルデータの大規模集積を利して、人々の心と生活に影響力を及ぼし、SNSを通じて心の分断や新たな対立をももたらす。中央銀行は成長志向の金融緩和政策に傾注し、自然利子率よりも金利を低く抑え込むことで、意識せずに格差を拡大する側に回ってしまっていると指摘される。国家・企業・通貨の蜜月がやがて終わるとの予感が漂う。

 その上で、著者は財政赤字拡大に寛容な現代貨幣理論(MMT)や仮想通貨リブラについての考察を進め、中央銀行による金融政策と通貨発行独占を前提とした現行通貨制度への過度の思い込みを排する。かくて本書において金融政策の本質的目標は、信頼される決済手段と価値尺度の提供であると再確認される。

 思えば私たちは、長く続く低成長という目の前の現実に対して、一見したところの分かりやすそうな処方箋を求め過ぎていたのではないか。近視眼的になればなるほど劇的なものに期待する傾向は強くなりがちだが、本書はそのような知的に未熟な態度を柔らかい言葉で戒めていると感じる。「常識」や思い込みをただされること度々であり、行間に沈む思考の深みには圧倒される迫力がある。知的刺激に満ちた一冊。じっくりと明日への思考を巡らせながら読みたい。

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1134547 0 書評 2020/03/29 05:00:00 2020/04/08 10:03:32 書評(21日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/03/20200328-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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