木下杢太郎『食後の唄』注釈・作品論 林廣親、有光隆司、小林幸夫、松村友視著 笠間書院 9800円

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◇はやし・ひろちか=1953年生まれ。成蹊大文学部教授。著書に『戯曲を読む術(すべ)―戯曲・演劇史論』。
◇はやし・ひろちか=1953年生まれ。成蹊大文学部教授。著書に『戯曲を読む術(すべ)―戯曲・演劇史論』。

耽美派の雑食的感受性

 評・栩木伸明 アイルランド文学者・早稲田大教授

 医師であり作家であった木下杢太郎もくたろうは今日、「百花譜」によって知られている。草花がこまやかに描かれたこのスケッチ日記は最晩年の作。第二次世界大戦中の個人生活と身近な美があいまった記録として、見る人を感動させる。

 杢太郎は若き日、北原白秋と並ぶ耽美たんび派詩人だった。『食後の唄』は白秋の『邪宗門』に続く時期に執筆されたが、出版がほぼ10年遅れたせいで歴史の中に埋もれてしまった。4人の研究者がこの詩集に精細な注釈と作品論を付して、徹底的な再読を試みたのが本書である。

 『食後の唄』は明治40年代の東京各地でスケッチをしたような詩集だ。杢太郎は自序の中で、「普請中」だった当時の東京を「不可思議国」と呼び、西洋近代を追いかけた目新しさと江戸以来の伝統が混在する風景を喜んだ。彼はまた、「油絵で複写した江戸錦絵のやうな」「不純な気分を愛する」とも述べる。ゴッホが広重を模写したのと響き合う、異文化を混淆こんこうするまなざしで、杢太郎は生成する都市に向き合った。

 四行詩「築地の渡し」には、10年ほど前まで外国人居留地だった明石町に建つホテルと、その対岸にある佃島の漁村が対置される。渡し船は異文化をつないでいたのだとわかる。市井の声を取り込みながら、生活の一片を拾う「町の小唄」詩編はそれぞれに楽しい。アルファベットやルビを活用した実験的な詩法も興味深い。

 「二月空」に描かれるのは衝動買いと、窓辺の水仙を枯らしてしまったこと。そして2月の雨と、自分で入れたコーヒーの濃すぎる味。「不可思議国」にJ―POPの歌詞さながらの街暮らしがあったのを知って驚く。詩人のアンテナは非凡な感度で身近な美しさを捉えたのだ。

 親友和辻哲郎はのちに、杢太郎を「享楽人」と評した。奈良の仏像、中国の石窟寺院、ヨーロッパ文化、切支丹研究、俳諧などをへて「百花譜」へと展開する雑食的な耽美派の感受性が、若き日の詩集にはやくもあふれかえっている。

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1148298 0 書評 2020/04/05 05:00:00 2020/04/13 09:59:06 書評(21日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200404-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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