よその島 井上荒野著 中央公論新社 1700円

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◇いのうえ・あれの=1961年、東京都生まれ。作家。『切羽へ』で直木賞受賞。近著に『あちらにいる鬼』。
◇いのうえ・あれの=1961年、東京都生まれ。作家。『切羽へ』で直木賞受賞。近著に『あちらにいる鬼』。

3人に何が起きたのか

 評・通崎睦美(木琴奏者)

 「今は、よその島におります」

 そんな答えに辿たどり着くまで、話はスリリングに展開する。私は思わず息をんで、何度かパタンと本を閉じた。なぜなら、冒頭で“殺人者”の白い手が美しく描写されるのだから。

 主人公は3名。西荻窪で父の代からの骨董こっとう屋を営んでいた碇谷芳朗いかりやよしろう76歳。東京生まれ、元高校教師の妻、蕗子ふきこ70歳。そして、著名ミステリー作家の野呂晴夫、彼も70歳。

 野呂は、芳朗の店に、月に1、2度あらわれて、筋のよい買い物をする客だった。そのうち親しくなり、同じマンションの住民だとわかって、親交を深める。子どものいない碇谷夫婦と、若い頃に離婚して一人暮らしの野呂は、特段の気負いなく、東京からプロペラ機で30分の島に古家を買いリノベーションして移住。3人での共同生活を送ることになった。

 趣味のよい調度品に加え、にんにく、生姜しょうが、玉ねぎにトマトを入れた「ドライカレー」、クミン、カルダモン、コリアンダーなどが入った「羊のソーセージ」等、登場する食の好みが、3人のこれまでの暮らし向きを伝える。

 同居人は主人公3名に、若い家政婦とその息子。気付くこと、気付かないこと。聞こえることや聞こえないこと。彼らはお互いを気遣いつつ、距離感を保って生きる。そこには、遠慮や堅苦しさ、時に恐怖をも包み込んだ思いやりがある。

 コレクションするビンテージアロハシャツを着こなす野呂と、話もセンスもかみ合わないエッセイ講座担当者の、イラっとするやりとりは、秀逸なアクセント。

 本書は、八つのセクションからなり、各セクションで3名が交互に、一人称で語る。それらの時空は、時に同調し交差する。

 私は自分のために一度読み、書評のために再び読んだ。本書は、からくりがわかってから読むと、また味わい深い。

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1148314 0 書評 2020/04/05 05:00:00 2020/04/13 10:01:26 書評(21日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200404-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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