読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

漱石文体見本帳 北川扶生子著 勉誠出版 2800円

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

さまざまな文体的実験

 評・飯間浩明(国語辞典編纂(へんさん)者)

◇きたがわ・ふきこ=大阪府出身。天理大教授。専門は日本近代文学。著書に『漱石の文法』など。
◇きたがわ・ふきこ=大阪府出身。天理大教授。専門は日本近代文学。著書に『漱石の文法』など。

 夏目漱石、大好き。文庫版の作品の多くは複数回読んだし、国語辞典の編纂へんさんにあたっては、毎日のようにその文章を参照しています。漢学や語学の素養に支えられ、硬軟の文体を見事に使い分ける技術は、改めて言うまでもなく、近代作家の中で最高級のものです。

 もっとも、その「硬軟の文体」がどこでどんなふうに使い分けられているか、と尋ねられると困ってしまう。漱石文学を研究する著者は、そこのところを実に鮮やかに、誰にでも分かりやすい文章で説明してくれます。

 たとえば、漢文調。漱石作品では特異な場面に使われます。「虞美人草ぐびじんそう」の末尾に出てくる、主人公の漢文調の日記。漱石は無理なストーリー展開を荘重な文体の力で押し切ろうとした、と著者は見ます。「吾輩わがはいは猫である」の日常描写にもことさら漢文調が使われ、誇張法によるおかしみが生まれています。

 あるいは、美文調。詩的な語句をちりばめた華麗な文体です。「虞美人草」では〈紫を辛夷こぶしはなびらに洗ふ雨重なりて……〉と続く美文調でヒロインの姿が描写され、さながら一幅の絵のようです。初期の漱石は、激動する近代文明と隔絶した絵画のような世界を、美文調によって表現しようとしていました。

 そのほか、会話中心で江戸戯作を思わせる滑稽本調や、現在形の語尾を多用する翻訳調など、漱石は約10年という短い執筆期間に、さまざまな文体的実験を行っています。それは、漱石自身の教養を基礎としていたのはもちろん、近代口語文体の模索期という歴史的状況にも後押しされた営みでした。

 著者は、漱石の文体を論じるばかりでなく、表現技法にも言及します。たとえば、「道草」の冒頭で、主人公の養父を「思い懸けない人」などとしか記さない迂言うげん法。そうした表現から、作品の描く「世界の不気味な感触」へと論じていく手並みには感嘆しました。

無断転載・複製を禁じます
スクラップは会員限定です

使い方
1174198 0 書評 2020/04/19 05:00:00 2020/04/27 10:17:14 書評 漱石文体見本帳 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200418-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)