時代へ、世界へ、理想へ 高村薫著 毎日新聞出版 1700円

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切実な社会の問題提起

 評・木内 昇(作家)

◇たかむら・かおる=1953年生まれ。作家。『マークスの山』で直木賞。『太陽を曳く馬』で読売文学賞。
◇たかむら・かおる=1953年生まれ。作家。『マークスの山』で直木賞。『太陽を曳く馬』で読売文学賞。

 新型肺炎対策の渦中、政治への失望が日々深まっている。後手後手の与党、それを対案なしに批難するだけの野党、厚労省や財務省の的外れな仕事ぶり。未曽有の感染症によって白日の下にさらされたかに見えるこの国の危機は、しかしずっと前から根強く浸潤していたのだと、本書にて切実に思い知らされた。

 米軍基地移転問題、温暖化による気候変動、年金問題や低成長にあえぐ日本経済。2019年から今年感染症発生に至るまでの時評だが、一年ほどの間にここまで膨大な問題が山積していったのか、と改めて暗澹あんたんとなった。

 『半眼訥訥とつとつ』『作家的時評集』と、現代社会に斬り込んできた著者の筆は、今作でも鋭く、またフェアである。地に根を下ろした生活者としての身体性をもって世を咀嚼そしゃくし、ニュースの流し見で済ませてしまいがちな事象を深く掘り下げる。5GやAI導入後の情報管理はどうあるべきか。消費税増税の奥に潜む問題はなにか。批判に終始せず、それぞれの問題提起に加え、明確な提案もなされる。根幹にあるのは、この時代をよりよく生きる、という純粋な志だ。言葉に対するその誠実さは、市井の人々の心模様を繊細に描きながら、時代や社会へと広がりを見せる著者の小説と相通ずるものがある。

 とりわけ、都合の悪い記録をいとも簡単に処分する政府への憂慮には強くうなずいた。森友学園の公文書改ざんも、桜を見る会のシュレッダー疑惑も、官僚たちがお粗末な弁明を並べる様を見て、怒りを通り越し哀れみすら覚えたものだ。理想に燃えていたろう若かりし頃の自分に、こんな姿を見せられるのか、と。

 「政治の不実」と著者は書く。ひるがえってそれは、国民の政治への無関心のツケなのかもしれない。コロナ禍が過ぎたとき、おそらく世の価値観は大きく変容している。だからこそ今、ひとりひとりが刮目かつもくし、理想をもって、この不確実な時代に対峙たいじする時が来ているのだ。

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1200539 0 書評 2020/05/03 05:00:00 2020/05/11 12:06:11 書評用 「時代へ、世界へ、理想へ」 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/05/20200502-OYT8I50018-T.jpg?type=thumbnail

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