アメリカ哲学史 ブルース・ククリック著

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即物主義とは異なる姿

評・山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

勁草書房 5400円
勁草書房 5400円

 初めて見る通史的アメリカ哲学史の光景は新鮮だ。ほとんど未紹介のままでいる、18世紀から20世紀にかけての、数多くの哲学者の学説が詳しく説明されている。

 アメリカの哲学は1720年頃に始まる。現在とは異なる質実たる精神が広がっていた。ニューイングランドの敬虔けいけんなプロテスタンティズムは後のプラグマティズムに比肩できるアメリカの伝統だという。目からウロコである。

 哲学も国家の歴史的発展に影響されてきた。南北戦争(1861~65年)がアメリカの精神を大きく変容させた。南北戦争後に数多くの社会的文化的出来事が知識の全体的構造を変化させる。

 ダーウィンの進化論はキリスト教の創造の考えを根本から揺るがした。新たな大学システムの成立は多くの種類の熟練者を養成し、ビジネス社会を推進した。聖書批判が始まり、聖書は人間や世界理解の基礎ではなくなった。産業化の進展によってストライキや武器を伴う衝突が起こった。社会問題が進行し、都市化にともなう格差の拡大が進んだ。

 哲学もまた姿を改める。道徳的生活として咲き誇るべきだという理念が、倫理的なものの具体的実践ということになり、それがプラグマティズムとして開花するのだ。

 19世紀にはドイツの観念論が深く大きな影響を及ぼしたことなど、即物主義となった現代のアメリカとは異なる姿が見える。哲学もまた、概念を追跡しているように見えて、政治的経済的事実に追いかけられて逃げまどっているだけではないのか。日本の現代の姿が透けて見えるようで読んでいて、とても怖い気持ちになった。

 第2次世界大戦以降の大学新設にともなって、哲学者が洪水のように増えたという指摘など、耳が痛い。哲学が現実の後追いに甘んじるべからずという思いを強く持たせる本だ。大厩諒、入江哲朗、岩下弘史、岸本智典訳。

 ◇Bruce Kuklick=1941年生まれ。歴史家。米国ペンシルベニア大名誉教授。米哲学史・政治史が専門。

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1237295 0 書評 2020/05/24 05:00:00 2020/06/01 13:35:56 ブルース・ククリックアメリカ哲学史(18日、本社で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/05/20200523-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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