ハイパーハードボイルドグルメリポート 上出遼平著   

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同じ地平に立つカメラ

評・橋本倫史(ノンフィクションライター)

朝日新聞出版 1800円
朝日新聞出版 1800円

 テレビ東京で「ハイパーハードボイルドグルメリポート」という番組が始まったとき、正直に書けば、少し眉をひそめた。「ヤバい世界のヤバいやつらのヤバい飯」という副題に、いかにもテレビ的な露悪を感じたからだ。取材する側が、自分たちを一段上に置き、ヤバい世界を見世物みせものにする番組ではないか、と。

 初回放送が始まると、リベリアの市場に並ぶ恐ろしい顔をした魚やカタツムリにカメラが向けられ、青いゴミ袋を着火剤にした、いかにも体に悪そうな調理場が映し出された。ああ、やっぱり――そう思いかけていた瞬間に、料理を作った女性が「食べないの?」とカメラに向かって尋ねる。撮影していたディレクターは「ありがとう」と礼を言うと、彼女たちに混じり、一緒に飯を食う。どんな「ヤバい世界」に足を運んでも、ディレクターは取材する相手と同じ地平に立ち、飯を食っていた。そのディレクター・上出遼平が書きつづったのが本書だ。単に番組の内容を切り出したものではなく、オンエアに乗らなかった光景や、取材での葛藤も綴られており、優れたノンフィクションに仕上がっている。

 「取材は暴力」と著者は記す。それでも取材を重ねるのは、「同時代にあるこの目もくらむような異世界を、可能な限り見尽くしたい」という好奇心からだろう。誰かがカメラを――視線を向けなければ、なかったことにされてしまう風景が存在する。当事者以外、誰も目を向けなくなった世界は、出口のない地獄と化す。そうして端っこに追いやられている場所に向かって、著者はズンズン進んでゆく。その先には貧困があり、伝染病があり、内戦の傷跡があり、暗躍するマフィアがおり、カルト宗教があり、さまざまな社会問題が横たわっている。それらが紋切り型としてではなく、不思議なリアリティとともに迫ってくる。それは、著者が「問題」ではなく、そこに暮らす人間の「顔」にカメラを向けているからだろう。

 ◇かみで・りょうへい=1989年東京生まれ。テレビ東京のテレビディレクター・プロデューサー。

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1237302 0 書評 2020/05/24 05:00:00 2020/06/01 13:36:47 上出遼平ハイパーハードボイルドグルメリポート(18日、本社で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/05/20200523-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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