五・一五事件 小山俊樹著

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昭和史の中で捉え直す

評・加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

中公新書 900円
中公新書 900円

 五・一五事件は、海軍の青年将校らによる政治テロだった。陸軍のクーデタとなった二・二六事件と比べると注目度は低い。しかし、昭和史に与えた影響力は、二・二六事件を超える。

 事件そのものは、具体的な目標も目的も曖昧、計画も杜撰ずさん、襲撃も散発的で被害も軽微、死者は警察官を含む2人にとどまった。しかし、もう1人の死者が首相の犬養毅、この犬養の殺害が、政党政治の終焉しゅうえんという結果をもたらした。

 本書は、規模に反比例して昭和史の転換点となった事件の全貌ぜんぼうを描き出した意欲作だ。事件に関与したさまざまな人物の政党を敵視する思想形成に始まり、事件による非政党内閣の誕生、裁判過程で顕在化する海軍内部の主導権争い、首謀者らのその後を明らかにしていく。

 事件によって犬養内閣は総辞職、後継内閣は非政党内閣となった。後継内閣決定をめぐる筆者の解釈には疑問があるが、重体の首相のすぐそばで政権維持に没入する内閣書記官長の森つとむが、「策士、策におぼれる」結果に陥っていくさまは政治家の業を見るようだ。

 そして、軍法会議の過程で海軍の本質が浮き彫りになる。首謀者の「眼界の狭き偏見と独断」によって引き起こされたにもかかわらず、「純真」であれば結果を問わない重鎮や幹部の甘い姿勢、科学を軽視して無謀な戦争に突入した精神構造は海軍も陸軍も変わらない。

 結局、被告人たちは軽い量刑で社会に復帰する。同時期にテロを起こした血盟団や神兵隊関係者と結びつき、近衛新体制運動、さらには東条内閣打倒計画に関わる。戦後も続いた彼らの活動と思想を追い、事件を戦前から戦後に続く昭和史のなかで捉え直した功績は大きい。

 事件当時、政党への反発は軍部に限らず社会全体に広まっていた。最大の批判勢力であった軍部が存在しない今、政党は国民の信託に堪え得る存在になっているのか。五・一五事件は現代への警告でもある。

 ◇こやま・としき=1976年生まれ。帝京大教授。専攻は日本近現代史。著書に『憲政常道と政党政治』など。

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1237305 0 書評 2020/05/24 05:00:00 2020/06/01 13:37:18 小山俊樹五・一五事件(18日、本社で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/05/20200523-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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