恋愛未満 篠田節子著 光文社 1600円

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◇しのだ・せつこ=1955年、東京都生まれ。『女たちのジハード』で直木賞、『鏡の背面』で吉川英治文学賞。
◇しのだ・せつこ=1955年、東京都生まれ。『女たちのジハード』で直木賞、『鏡の背面』で吉川英治文学賞。

諦念と期待の中で

 評・木内 昇(作家)

 中年の日々は、不如意の連続である。五十代ともなれば、人生の「あがり」もうっすら見えてくる。これまで職場や家庭で相応に努めてきた。つつがない暮らしも手に入れた。だが冷静に振り返れば、思い通りにならない現実と折り合ってきた道程という気もする。いや、諦めるには早い。ここから花が咲くかもしれない――。

 そんな諦念と淡い期待の入り交じる男女の機微が、五つの短編から匂い立つ。穏やかで優秀、端整な風貌ふうぼうながら、意外な理由で独身を貫いてきた大学教授。ずっと依存されてきた母から逃れたいと願いつつ、その倫理観にとらわれて結婚生活に破れた女。世間的には「いいとし」である彼らは、時にひとりよがりな勘違いに陥り、時に失ったものを数えながら、相変わらず凸凹道を歩いている。ここには、しゃれたカフェもめくるめく熟年恋愛も福山雅治も登場しない。ダイエット目当てのジムや市民吹奏楽団、認知症の親が入院した病院が舞台である。つまり、私たちのリアルな日常が息づいている。

 深刻な思いを抱える者もあるが、物語は総じて軽妙な味わいだ。中でも「マドンナのテーブル」で、元同僚の男たちに交じって「だははは」と笑う吾妻智子は印象的。五十の声を聞き、近い将来「社会的地位」から切り離される彼らの不安を、彼女の機転はひと掃きで拭い去る。ここに描かれる中年女性たちは、お節介せっかいで厚かましいが、どこか泰然として懐が深いのだ。

 背中に贅肉ぜいにくがつくのと引き換えに、女の遠慮や恥じらいが失われるのもまた現実。美魔女なる言葉が生まれて久しいが、かつて加藤治子や杉村春子が演じていたようなザ・中年には、独特の色気というか妙味があった。野菜で言えばえぐみである。年輪が刻まれた姿は潔く頼もしい。そうして、代わり映えしない日常に、時折ほのかで温かな関係性が花咲くようにともる光景こそが、実は人生においてなにより得難い彩りなのだと、本書はそっと教えてくれる。

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1276100 0 書評 2020/06/14 05:00:00 2020/06/22 10:54:11 書評 「恋愛未満」 篠田節子(1日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/06/20200613-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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