神さまとぼく 山下俊彦伝 梅沢正邦著

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個を豊かにする経営者

評・鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

東洋経済新報社 1800円
東洋経済新報社 1800円

 「経営の神さま」松下幸之助によって、松下電器産業(現在のパナソニック)の3代目社長に大抜擢ばってきされた「ぼく」山下俊彦を、ベテラン記者があますところなく約500ページで描く。

 会社だけではなく、あらゆる組織にかかわる全ての人に役立つ宝石のような言葉にあふれる。

 1977年、取締役26人のうち下から2番目だった山下は、幸之助、その女婿・正治に続き社長に就く。創業家とは無縁、大卒でもない。定時退社を旨とし、権力欲はない。社内に対し「私は偉くない」と言い放ち、9年間務める。

 「神さま」の理念は生産による貧しさの一掃であり社員に徹底される。違和感を抱く「ぼく」は利益を最も大切だとする。そこで悲壮感ではなく、自分と事業をともに豊かにする合理主義を説く。この姿勢は、誰にもままならない天候を相手にしたエアコン事業部長経験に基づく。

 本書の魅力は、こうした彼の経営者としての秀でた目と果断な行動力が、生々しい群像劇をおりまぜいきいきと伝えられるところにある。

 現場の問題点をすくいあげ、危機を察知する。中期計画を導入し、VHSビデオ推進に重要な役割を果たす。新しい分野への進出=構造転換、拡大ではなく規模を変えずに生産性を上げる=体質強化、の二つを柱に同社を変える。どれも、活力があって困難から逃げない会社にするために、山下が気負わずに成し遂げた。

 だから、彼が退いた後、同社の向かう下り坂は痛々しい。山下と似て非なる合理主義は株価だけを見る。日本のエレクトロニクス産業は、ものづくりを失い没落する。もし彼がいれば、と読者も仮定せずにはいられないだろう。

 その不在は従業員と会社を考えると際立つ。「個」のための「全体」という幸之助の考えを山下は、仕事で「感動」の場を社員に与えると読みかえた。そうやって部下を理解する上司はどこにいるのか。嘆くよりも、本書にちりばめられた箴言しんげんから、前を向く勇気をもらいたい。

◇うめざわ・まさくに=1949年生まれ。経済ジャーナリスト。著書に『カリスマたちは上機嫌』など。

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1290270 0 書評 2020/06/21 05:00:00 2020/06/29 14:38:36 神さまとぼく=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/06/20200620-OYT8I50076-T.jpg?type=thumbnail

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