蓼食う人々 遠藤ケイ著

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生きるため獲って食う

評・稲野和利(ふるさと財団理事長)

山と渓谷社 1500円
山と渓谷社 1500円

 かつて辺見庸は著書『もの食う人びと』で「み、しゃぶる音をたぐり、もの食う風景に分け入って、人びとと同じものを、できるだけいっしょに食べ、かつ飲むこと」と記した。

 本書の著者が実践するのはまさにそのようなことである。舞台は日本、山や川や海、厳しい自然の中、著者は伝統的な狩猟集団であるマタギ衆や山師(山仕事に従事する林業労働者)、漁師らと行動をともにする。獲物をる(採る)という行為とそれを食するという行為が見事に連結する。迫真の描写に引き込まれる。こんな世界があるのかと驚くことの連続である。

 例えば、野兎のうさぎは山村の狩猟生活においては貴重なタンパク源であり、獲物には最大限の敬意が払われる。“兎の一匹食い”と言われる言葉のごとく、捨てることなく完全に食べる。それこそが自然に対する深い感謝の表現なのだ。肉は刺身、鍋の具などに、骨は砕きつぶして骨団子としこれも鍋の具に、毛皮は毛を火で焼き皮を細かく切ってゼンマイなどの山菜と一緒に味噌煮みそにに、内臓もすべて料理して食べ、脳みそと目玉も食べる。そしてドブロクを痛飲する。こうして著者は様々な場所で至福の時を過ごす。

 からす、トウゴロウ(カミキリムシの幼虫)、岩茸いわたけ野鴨のがもあゆかじか山椒魚さんしょううお、スギゴケ、スガレの幼虫(蜂の子)、ザザ虫、イナゴ、槌鯨つちくじら、熊、海蛇、海馬とど。鮎や鴨を除けば通常我々の食卓ではほとんど見かけることのないものが題材である。「獲って食する」という営みの遠景に、農漁村、山村における生活と食の歴史が浮かび上がり、読む側の根拠なき人間中心の自然観が揺らぐ。

 「『たで食う人々』は、人類の歴史の、貴重な証言者でもある。いま、ことさら彼らをあがめたてる必要はないが、“生きるために食う”という根源的な目的のために、一切の偏見を持たず、ひたむきに食べ物に向き合ってきた人々に賞賛を送りたい」という著者の言葉に読者は大いに共感することになるだろう。

◇えんどう・けい=1944年新潟県生まれ。民俗学をライフワークとして人々の生活や労働習俗を取材する。

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1290279 0 書評 2020/06/21 05:00:00 2020/06/29 14:37:11 蓼食う人々=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/06/20200620-OYT8I50079-T.jpg?type=thumbnail

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