月のケーキ ジョーン・エイキン著

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苦みの効いたおとぎ話

評・南沢奈央(女優)

東京創元社 2000円
東京創元社 2000円

 題のかわいらしさが装画の不気味さをさらに際立てている。本書に収められた13編の短編作品でも同様。おとぎ話の世界の中に秘められた、影の部分がより濃く浮きだっている。

 著者は、ガーディアン賞やエドガー賞児童図書賞を受賞している児童文学の名手である。だが本書は、“児童文学”と一言で片づけてしまってはキケンな一冊である。「作家の任務とは、子どもたちにむかって、この世界は単純な場所ではないことを示すことだといえるでしょう」という著者の言葉通り、美しく神秘的、残酷で愚か……世界が内包するさまざまな面を何層にも織り込ませていて、死の気配さえすぐそこに感じるような物語ばかりなのだ。

 表題作は、祖父の住む村を訪れ、特別な人間にしか作ることも食べることも許されない“月のケーキ”作りを手伝うことになった少年トムのお話。悪いことが起こって、元の状態に戻したいと嘆いている人たちの時計の針を戻すためのケーキだという。トムは、自分の部屋で爆弾を作っていて、うちを燃やしてしまったことを悔いていたところだった。元通りに戻せるのでは、とトムと同じく信じたのが、他はみな大人というのも可笑おかしい。

 だがトムはケーキ作りを手伝いながら気づく。ゲームみたいに人生が戻るわけがないし、「やってしまったことはやってしまったことだから」と。そして、月のケーキを食べようとした大人たちの顛末てんまつは――。

 他にも犯してしまった過ちと向き合うことについて考えさせられる作品が多い印象だったが、随所にユーモアが盛り込まれている上に、取り扱う題材がスーパーの広告や警報システム、土地の開発や相続など現代的な視点であるから、裏に風刺めいたものも読み取れる。甘そうな見た目とは裏腹に、苦みの効いた複雑な後味が残る。これはぜひ、大人にこそ味わっていただきたい。三辺律子訳。

◇Joan Aiken=1924~2004年。英国の作家。邦訳に『しずくの首飾り』『ナンタケットの夜鳥』など。

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1290282 0 書評 2020/06/21 05:00:00 2020/06/29 14:37:32 月のケーキ=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/06/20200620-OYT8I50080-T.jpg?type=thumbnail

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