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危機を乗り越える日々
評・通崎睦美(木琴奏者)

本書は、緊急事態宣言後に出版社から依頼を受けて
日本には、平安時代の「土佐日記」をはじめ、多くの優れた日記文学がある。それらと本書の大きな違いは、読者である我々が、つい3か月前に同じ日々を体験したことだろう。相談急増で忙しくする夫婦問題カウンセラーもいれば、非常時こそ頼りになる夫に
葬儀社スタッフが、肺炎で亡くなった方の遺族とやりとりする緊張感。ホストクラブ経営者が、日本水商売協会の一員として自民党本部で岸田政調会長と面談する様子。馬の調教師が記す、無観客開催の川崎競馬の内情。さらには、ゴミ清掃員や占星術家など知らない仕事の世界を垣間見ることもできる。
自身を含め、私の周りには自らの意思でフリーランスになった人が多い。貧乏に慣れているので生活の不安は薄いという文筆家。フリーランスはもともとスリリング。仕事がなくても、今回はその理由がはっきりしている分、気が楽だという写真家。結果だけを追わず、過程を大切に。<今年一番正しい行為は勉強>と標語を定めるイラストレーター。<地味なことは打たれ強い>と踏ん張る
また、2月末の段階で、3月のスペイン旅行について、やめたほうがいいとの助言は思いもつかなかった、という旅行会社社員の正直な心情の記載は、重要な記録となるはずだ。
つい最近、大正時代スペイン風邪流行期に京都の12歳の少女が書いた6冊の日記が発見された。京都生活史の一級史料である。さて、本書は、100年後どのように読まれるだろうか。
◇有名無名を問わず、全国の様々な職業、幅広い年代の人が、コロナ禍における日常を日記につづった。