イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史 上・下 ロネン・バーグマン著 早川書房 各3200円

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

◇Ronen Bergman=イスラエル最大の日刊紙「イェディオト・アハロノト」紙の軍事・諜報担当上級特派員。
◇Ronen Bergman=イスラエル最大の日刊紙「イェディオト・アハロノト」紙の軍事・諜報担当上級特派員。

底知れぬ闇 冷徹に描く

 評・篠田英朗 国際政治学者・東京外国語大教授

 圧巻の内容である。イスラエル諜報ちょうほう機関が行ってきた2700件とも言われる暗殺の主要事件の数々が、詳細に再現される。上下巻で1000ページの分量である。あたかも全ての作戦に立ち会っていたかのように書く著者の調査能力には、舌を巻く。驚くのは、過激な内容を扱いながら、著者が客観的な筆致を貫き続けることだ。感情に溺れる様子を一切見せない文章が、かえって現実の計り知れない恐ろしさを伝える。

 題名に偽りのない包括的な内容を持つが、ただしそれでいて辞典のように単に情報を羅列するだけにとどまっていない。本書による歴史と人間の探求は、あまりに奥深い。

 イスラエル諜報機関による敵対勢力の指導者層の「否定的処置」は、しばしば中東の歴史を作り替えてきた。その要人「整理」は、激しく揺れ動く中東の政治情勢に翻弄ほんろうされながら進められてきた。本書を読むと、イスラエルや周辺・関係諸国その他の勢力の政治的動きを、要領よく理解していけるようになっている。

 さらには、暗殺作戦を実施する場所の地域的な拡大、敵対勢力による自爆テロなどを招いた負の連鎖、ドローンや情報技術の導入がもたらした作戦面の変化、発達した「標的殺害作戦」方法の9・11以降の世界におけるアメリカへの影響、そして失敗と成功を通じて再生と堕落を繰り返す諜報組織の歴史の説明なども、明晰めいせきだ。

 それにしても本書の最大のすごみは、登場人物の描写だろう。ホロコーストの記憶を抱える初期の暗殺者、過激な思想や世論対策上の打算を優先させて作戦指揮をする政治家、天才的な能力を発揮する諜報専門家、良心の呵責かしゃくにかられて職務遂行を拒絶する職員など、様々な背景を持つ人々の究極的な状況における生きざまが、ダイナミックに描かれる。特異な国家安全保障政策を精緻せいちに分析しながら、人間の底知れぬ闇も冷徹に描き切った。恐るべき本だ。小谷賢監訳、山田美明、長尾莉紗、飯塚久道訳。

無断転載・複製を禁じます
1336247 0 書評 2020/07/12 05:00:00 2020/07/12 05:00:00 ロネン・バーグマン「イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史 上下」(29日午後1時43分、本社で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200711-OYT8I50047-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ