スーベニア しまおまほ著 文芸春秋 1600円

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◇しまお・まほ=1978年、東京生まれ。作家、漫画家、イラストレーター。著書に『マイ・リトル・世田谷』。
◇しまお・まほ=1978年、東京生まれ。作家、漫画家、イラストレーター。著書に『マイ・リトル・世田谷』。

自分に嘘をつかない

 評・木内 昇(作家)

 愛するより愛されるほうが女性は幸せ、とまことしやかにささやかれるが、果たして。この小説を読みつつ、そんな疑問が脳裏をよぎった。

 シオは、居酒屋で知り合った文雄と曖昧な関係を続けている。彼が連絡をくれるのは気まぐれで、数ヶ月音沙汰がないことも。どこに誰と住んでいるのかも知らない。それでも会えば、他には代えがたい特別な時間が生まれる。

 都合のいい女と多情な男の構図、とは違う。シオはカメラマンとして自立していて依存型でもなく、文雄は世俗の物差しにとらわれない根っからの自由人。才能ある映像カメラマンだが、それをひけらかすことなく、自らの澄んだ感覚に従って生きている。その希有けうな魅力はしかし、例えば震災直後に安否確認の連絡ひとつしてこない、といった寂しさをシオにもたらしもする。同世代の友人は結婚し、ついこの間まで「いい人いないね」と語り合っていた仕事仲間に恋人ができる。三十代半ばの焦燥。でも文雄のような人は、関係性をはっきりさせはしないだろう。そう察しながらも、シオは一歩踏み出すが。

 著者はこれまでエッセイや漫画で自身や家族を描いてきた。身辺雑記だが「あたしって」臭は皆無、そこには遠くから自分を眺めているような独特の距離感があった。その客観的な視座が初の小説でさらに生き、名状しがたい文雄のたたずまいを、好きな人の心がつかめないシオのもどかしさを、切実に表すことに成功している。後半、「愛してるよ」と言葉にしてくれる男性が現れるが、彼の言動へのささやかな違和感が積み重なっていく様もヒリヒリと伝わってくる。

 誰と生きるか。その大事な選択をシオはためらう。片眼かためつぶって気楽な誰かと並走するより、ずっと両目を向けていられる相手を欲する道もあるのだ。決められないようでいて、「流される人生にも、覚悟がいるのよ」というシオの言葉には、受動ではない、自分の心にうそつくことなく歩むという能動的意志が確かに宿っていた。

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1336260 0 書評 2020/07/12 05:00:00 2020/07/20 11:26:01 しまおまほ「スーベニア」(29日午後1時47分、本社で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200711-OYT8I50052-T.jpg?type=thumbnail

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