外交官の文章 もう一つの近代日本比較文化史 芳賀徹著 筑摩書房 3200円

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

歴史を文学として堪能

評・鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

◇はが・とおる=1931~2020年。比較文学者。著書に『平賀源内』『絵画の領分』『文明としての徳川日本』。
◇はが・とおる=1931~2020年。比較文学者。著書に『平賀源内』『絵画の領分』『文明としての徳川日本』。

 今年2月、米寿にて生涯を閉じた著者による遺作は、その集大成として、これ以上ないほどふさわしい。重厚な読書の喜びをもたらす。

 日本の文学と文化それぞれを「外からの」により比べ、つなげる「比較文学比較文化」という新しい学問を著者は打ち立てた。本書は、その本領が輝く。日本と海外の交流にかかわった文章をじっくり読み、文学史と文化史の両方に位置づけ、近代への読者の理解を深める。

 『外交官の文章』といえば味気ない報告文を思い浮かべるかもしれないが、それは違う。本書で扱うのは、英国の初代駐日公使ラザフォード・オールコックに始まり吉田茂と彼の妻・雪子に至り、詩人にして駐日フランス大使でもあったポール・クローデルも含まれる。多くは漢語まじりの文語体で、安易にカタカナを使わない教養に富み、言語感覚の鋭さを見せる。

 だから著者は、「面白い」「少しも難渋するということがない」と味読する。そんな著者が彫琢ちょうたくした美文による解説に導かれ、読者は幕末から日米開戦前夜までの約80年間をめいっぱい追体験できるだろう。

 例えば久米邦武の編んだ『特命全権大使米欧回覧実記』の読み解きから、岩倉使節団が世界各地で重ねた観察と洞察を知る。教科書で習う富国強兵・殖産興業といった標語がどれほどの努力に支えられていたのか。ありきたりな知識を超え、歴史を文学としても味わえる。

 日清戦争後の三国干渉をめぐって陸奥宗光が『蹇蹇録けんけんろく』で述べた「他策なかりしを信ぜむと欲す」に続く本書の記述は、あまりにスムーズで原著をすらすら読んでいる気にさせる。

 洒脱しゃだつな装丁から的確に配された図版、ご遺族の末文まで絶妙にまとめた編集の手腕も光る。明治後期に日英同盟を成功させた林ただすへの著者の賛辞を借りるなら、「愚鈍な歴史学者、社会科学者にはまねのできない文学的手腕」が実を結んだ稀有けうな一冊を、心ゆくまで堪能したい。

無断転載・複製を禁じます
1380704 0 書評 2020/08/02 05:00:00 2020/08/11 10:35:45 「外交官の文章 もう一つの近代日本比較文化史」 芳賀徹(27日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200801-OYT8I50054-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
500円400円
参考画像
ランチでご来店のお客様にジェラートをサービス
参考画像
アクティビティご利用でソフトドリンク1本サービス

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ