ケアの形而上学 森村修著 大修館書店 2200円

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

特殊な贈与を見いだす

評・山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

◇もりむら・おさむ=1961年、群馬県生まれ。法政大国際文化学部教授。専門は現象学、フランス現代哲学。
◇もりむら・おさむ=1961年、群馬県生まれ。法政大国際文化学部教授。専門は現象学、フランス現代哲学。

 ケアは「看護、世話、介護」として捉えられている。子育て、老人や病人の介護などが具体的事例でその多くが女性に押し付けられてきた。ケアとは一方的贈与でしかないのか。本書はケアに対して新しい視点からアプローチする。

 著者は学生を引率してニューヨークで合宿しているときに9・11の同時多発テロを経験した。その経験に彼は全身を貫かれ、直観的に「ケアとは、アナキズムでなければならない」と確信する。ケアの形而上学けいじじょうがくはすさまじい。

 著者は、トラウマ(外傷)として心に刻まれた記憶に注目することで、ケアの基本図式を作り変える。それは破壊の傷跡としてあるだけではない。可塑性、形成力をも有している。

 トラウマを抱えながら生き延びる者とケアの問題の関連は困難な課題だが、そこに特殊な贈与の形式を著者は見いだす。ケアは与えて、受け取ることのない純粋な贈与ではなく、「すれ違い続ける交換」だ。

 正義の倫理は、「目には目を」に見られる対等性と対称性を原理としている。「倍返し」もその応用形である。ところが、ケアにおいては、非対称性、一方向性が主流だ。

 古代のストア派は、徳の報酬は徳のうちにあると述べ、返礼の契機を除去した。ケアされながら、死を迎える道を歩む者は何をお返しすればよいのか。本書は、死に行く者の返礼とは、希望を贈ること、相手に希望を植えることだと述べる。ケアから希望へとつながる橋を本書は構築しようとしている。

 9・11を語るために書かれたケアの形而上学は、冷静に世界を、そして人生を見つめる。死への倫理学でもある。死後の世界は、倫理の外部にあり続け、その境界を乗り越えて語ることは人間には許されない。

 愛猫の見取り、父親の認知症など、身近な話題に始まり、ケアの形而上学は文明論を目指す。長い射程を持つ祈りの本となっている。

無断転載・複製を禁じます
1380710 0 書評 2020/08/02 05:00:00 2020/08/11 10:36:16 「ケアの形而上学」 森村修(27日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200801-OYT8I50056-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
500円400円
参考画像
ランチでご来店のお客様にジェラートをサービス
参考画像
アクティビティご利用でソフトドリンク1本サービス

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ