深夜ポンコツ 鈴木圭介著

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この道 全身全霊で

評・木内 昇(作家)

左右社 1727円
左右社 1727円

 90年代。甲高いデジタルサウンドがちまたにあふれる一方で、個性的で音楽性の高いロックバンドが次々に登場したあの時代。彼らの鳴らす音はもちろん、歌詞の深さにも引き込まれた。残念ながら多くは解散してしまったが、メンバーチェンジも活動休止もなく今なお突っ走るバンドがある。フラワーカンパニーズ。そのヴォーカル、鈴木圭介の文章をまとめた一冊。

 およそミュージシャンらしからぬ構えの人である。酒も煙草たばこもやらない。破壊的言動とも無縁。なで肩。革ジャンも似合わないと本人は嘆く。日常の小さな違和感に引っかかり、子供の頃の家族の光景を懐かしむ。読みながら腹を抱えて笑ったりほろりとしたりと忙しいエッセイには、著者の不安も時折顔を出す。メジャー契約が切れ、印税は「雀の涙、いや、オケラの涙」。50歳を越え、感じる体の衰え。それでもバンドを、音楽を、死ぬまで続けたいという強い意志。

 この道でいいのかな。この道を続けていけるのかな。似て非なる両極の不安は、生きていれば誰のもとにも訪れる。フラカンの曲は、やみくもに前向きを唱えるでも、暗い路地に逃げ込むでもなく、ダメな自分、情けない自分に、ちゃんと向き合うところからはじまっている。だから後ろ向きな歌詞であれ、体の奥底から力が湧いてくる。いろんな人生への肯定が根っこにあるから、世界が前より明るく見えてくるのだ。評者もまた、折々にフラカンの曲に励まされ、しがない物書きの不安な身過ぎをしのいできた。

 「全身全霊で伝えようとしないと、決して届かない。そして全身全霊でやったからといって伝わるかといったら、そんな甘いもんでもないのだ」とはけだし名言。結成31年目のベテランなのに、今もライブ前には吐きそうなほど緊張する。経験値が上がっても小手先でやらず心で伝える。「生きててよかった そんな夜を探してる」(深夜高速)。もがきながらも純粋にひとつことを続ける尊さが、全編から染みてくる。

 ◇すずき・けいすけ=1969年生まれ。89年、バンド・フラワーカンパニーズを結成。著書に『三十代の爆走』。

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1427731 0 書評 2020/08/23 05:00:00 2020/08/23 05:00:00 書評用(14日) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200822-OYT8I50046-T.jpg?type=thumbnail

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