百年と一日 柴崎友香著

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ささいな記憶 愛おしく

評・橋本倫史(ノンフィクションライター)

筑摩書房 1400円
筑摩書房 1400円

 新聞には今日も数えきれない出来事が掲載されている。そこに登場するのは家族でも友人でもないのに、わたしたちは記事に目を通し、世の中で何が起きているのか知ろうとする。ノンフィクションや歴史書もまた、過去に世界のどこかで起こった出来事を読者に伝えてくれる。

 本書は33の短篇たんぺんが収められた小説集だ。つまりフィクションであるのだけれども、そのひとつひとつの物語は、ほんとうに起きた出来事のように感じられる。そこにつづられる、わたしたちが実際には経験していないことを通じて、世界のすがたに触れられたような気がするから不思議だ。

 たとえば、「埠頭ふとうからいくつも行き交っていた大型フェリーはすべて廃止になり、ターミナルは放置されて長い時間がったが、一人の裕福な投資家がリゾートホテルを建て、たくさんの人たちが宇宙へ行く新型航空機を眺めた」という短篇。物語のあらすじはタイトルの通りだ(まだ「宇宙へ行く新型航空機」こそ存在しないけれど、こんな歴史を辿たどった港をよく知っているような気がする)。

 初めて新型航空機が宇宙に飛び立つ日、埠頭には昔の夏祭りを模した屋台が並んだ。それを見たこどもたちは、昔の夏祭りを見たことがないのに、「なつかしいね」と盛んに言う。本書を読むと、そのこどもたちと同じように、「なつかしいね」と言いたくなる。それは、タイトルに要約されるあらすじからこぼれる、ささいな感覚がいくつも描かれているからだろう。

 わたしたちの感覚はあっという間に薄れてゆく。日々の暮らしの中で、いろんな風景を目のあたりにし、様々な感情が浮かんでいるはずなのに、次の日には忘れてしまっていることが大半だ。そんな断片が、『百年と一日』を読むとよみがえってくる。小説の随所に配置される、ささいな記憶がいとおしく、「なつかしいね」とつぶやいてしまう。

 ◇しばさき・ともか=1973年、大阪生まれ。作家。著書に『春の庭』『その街の今は』『寝ても覚めても』など。

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1441568 0 書評 2020/08/30 05:00:00 2020/08/30 05:00:00 書評(8月30日付用) 年と一日 著・柴崎友香(24日午後3時1分、東京都千代田区で)=早坂洋祐撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200829-OYT8I50068-T.jpg?type=thumbnail

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