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食の根源を問う闘病記
評・通崎睦美(木琴奏者)

<病にも色気のあるなしがあるちゅうんですが>。自身の病気の基本的な症状は下痢、という著者は、桂米朝の落語の枕の一節を引き、悲劇なのに喜劇っぽいというのは、当人にとって余計に悲劇なのだと嘆く。そういえば、脳血管が細くなり脳
本書は、20歳の時、厚生労働省が定める指定難病、潰瘍性大腸炎を発症した文学紹介者の闘病記。この病気は症状に大きな個人差があるが、いずれも完治することはない。炎症が治まれば「寛解」。いかにその状態を長く保ち「再燃」させないかに注意を払うこととなる。
<「出すこと」の恥ずかしさは、「漏らすこと」によって頂点に達する>。そんな言葉で語られる下痢の症状は想像の域を
病気とのつきあいもさることながら、病気を理解してもらえないもどかしさもつらい。「治らない病気なんです」と言えば「いえ、治りますよ」と励まされる。これには閉口する。食事の場での他人の善意の気配りが「共食圧力」となるストレスも相当なもの。
著者は、闘病を通じ、図らずも持ち合わせることになった鋭敏な感覚をもって世の中を見渡し、物事の多様性に目を見開く。そして、人はいろんな事情を抱えて生きていることに思いを致す。<「想像が及ばないことがあるだろう」という理解>の大切さ。本書は、他人を思いやる行為が独りよがりなものになってはいないかと問いかけてくる。
◇かしらぎ・ひろき=文学紹介者。筑波大卒。著書に『絶望名人カフカの人生論』『絶望図書館』など。