ローマ史再考 田中創著
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衰退イメージを覆す
評・山内志朗(倫理学者・慶応大教授)
今年はアウグストゥス関連の本が続けて出た。ビザンツ帝国への関心も高まっている。両方の話題を結びつける本書は時宜にかなっている。
ローマ帝国が東西に分裂し、476年の西ローマ帝国滅亡という衰退の歴史を読者は予想しがちだ。だが、帝国の最終段階は哀調に
中心テーマは、コンスタンティヌス大帝の登場と新しいローマであるコンスタンティノープルの建設だ。
ローマは一つではなく、新しいローマ(宮廷都市)がいくつも作り上げられた。皇帝が4人に増やされたことも連動する。皇帝が権限を掌握するために前線での軍事指揮権が必要で、しかも政治の中心たる大都市で官僚(元老院)を統率し、法令を発布することが必要だった。
戦場と首都を結ぶ動線が長くなっては権限は
移動宮廷、動く都市としての皇帝団は途方もなく巨大であった。官僚として働く元老院議員は膨れ上がり、移動宮廷に随行したのだ。皇帝の護衛隊、官僚団、世話役などを含めて数千人の集団が帝国内を練り歩いた。そして時には訪問先の住民の反逆や暗殺の危険にも
皇帝の多くが軍人皇帝だったのは当然だった。さらに、政治的な闘争分裂の中で、連動しながらキリスト教の教義が定まっていった。異端を廃し、正統的教義が確立する公会議が何度も開かれ、基礎が固められていった。宗教の制度的確立と政治的な思惑と背後の巨大な官僚機構、それらの関連の解明は現代につながる。
本書の著者は古代の碑文、法典を自在に読み解き、臨場感たっぷりに伝える。現地取材してきたかのような描写力を堪能した。激しく楽しい歴史書である。
◇たなか・はじめ=1979年、東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は古代ローマ史。