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灯台からの響き 宮本輝著 集英社 1900円

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◇みやもと・てる=1947年生まれ。『螢川』で芥川賞。著作に『優駿』、「流転の海」シリーズなど。
◇みやもと・てる=1947年生まれ。『螢川』で芥川賞。著作に『優駿』、「流転の海」シリーズなど。

遺された者を生かす物

評・木内 昇(作家)

 近しい人が亡くなったとき、のこされた者の多くは途方もない喪失感とともに、後悔にさいなまれるのではないか。深く知り得たはずのその人について、取りこぼしているものが種々あることに気付き、愕然がくぜんとするのである。ずっとそばにいたのに、いや、側にいたからこそ、いつでも確かめられるとすっかり油断していたのだ。

 牧野康平は、二年前に急な病で妻の蘭子を失った。彼は板橋仲宿の商店街で、父から継いだ中華そば屋を妻とふたりで切り盛りしていたが、以来店を閉めて家にこもっている。ある日、読みかけの『神の歴史』から蘭子宛の古い葉書が見つかる。差出人は妻が生前、「まったく覚えがない」と言っていた大学生で、「灯台巡りをした」という報告と、どこかの岬らしき図が描かれていた。本当に妻は彼を知らなかったのか。ふと湧いた疑念が、康平を灯台巡りの旅へと誘う。

 妻の過去を辿たどる康平を見守るのは、同じ商店街の惣菜そうざい店店主や友人の忘れ形見の青年、そして成人し、それぞれの道を歩みはじめた三人の子供たち。市井の人々のたくましくも温かいまなざしがそこここに息づく。周囲の協力を得て旅を続けるうち、康平の奥底にまた店を開けようという意欲が芽生えてくるのは、彼の内側で、蘭子が再び生きはじめたからだろうか。

 終盤、ある人物との邂逅かいこうにより、葉書の意味と、妻が守り続けた秘密が解き明かされる。それが単なる驚かし的新事実ではなく、それこそが蘭子という人物の本質なのだと深くに落ちるところに、この小説のすごみがある。人は誰しも多面だ。ただその多彩な側面は、ジキルとハイド的乖離かいりではなく、ひとりの元から思い思いの方向に伸びた糸によって、ゆるやかにつながっている気がする。康平は、妻の芯となる一本をたぐり寄せた。世を去ったのちにも大切に丁寧に自分を生かしてくれる存在がある――中華そば屋で日夜忙しく働き続けた蘭子の人生は、そういう大きな幸せの中にあったのだ。

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1556586 0 書評 2020/10/18 05:00:00 2020/10/26 10:57:27 [書評] 「灯台からの響き」 宮本輝(6日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201017-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

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