イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術 ペッレグリーノ・アルトゥージ著

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平凡社 8800円
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19世紀末のレシピ集成

評・三中信宏(進化生物学者)

 日常的な厨房ちゅうぼうでの作業は目の前の食材との語り合いと無駄のないスケジューリングの勝負だ。出汁だし取りから始まり、食材の下準備をすませ、煮る・炊く・焼く・蒸すという調理に取りかかるときには食卓に料理を並べる配置が決まっていることだろう。経験に裏打ちされた“厨房の科学”が各料理の「定番レシピ」として時代を越えて伝えられる。

 原書の初版は19世紀末に出版された。伝統的イタリア家庭料理を集成した本書全700ページには計790ものレシピがぎっしり詰め込まれていて、評者は読了するのにまる2か月もかかった。前菜から始まり、卵料理・詰物・揚物・茹物ゆでもの・煮込み・冷製・魚料理・焼物と続き、最後はデザートと文字通りフルコースで押し寄せてくる。最初から辛抱強くたどれば『大全』の書名にふさわしい体系的な知識と教訓とエピソードを日本語で読めるのは朗報だ。

 イタリア料理の基礎となる出汁(ブロード)と煮汁(スーゴ)は日本料理で言えば昆布やかつおの出汁に相当するだろう。汎用はんよう的な食材として使われる豚肉のハム(プロシュット)や塩漬けばら肉(カルネセッカ)・塩漬け背脂(ラルドーネ)、それらを香味野菜と合わせた「バットゥート」や「ソッフリット」も大活躍する。野鳥や野獣を使ったジビエ料理の豊富さには食欲がそそられる。イタリア料理の独壇場だ。

 食文化がちがうと基本用語で立ち往生することがある。料理のカテゴリー分けそのものにも戸惑う。たとえば「ミネストラ」なる大きな料理カテゴリーがある。いわゆる「ミネストローネ」を含むこのカテゴリーは「スープ、パスタ、米料理の総称」と定義されるのだが、なぜひとくくりにするのか評者にはすぐにはわからない。ピッツァがなぜ“菓子”だったのかというもうひとつの深遠な疑問も湧く。イタリア料理はさまざまな謎を秘めつつ大きく進化してきたことを知る。工藤裕子監訳。中山エツコ、柱本元彦、中村浩子訳。

 ◇Pellegrino Artusi=1820~1911年。文筆家。1891年に本書を自費出版後、20年間改訂を続けた。

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1593372 0 書評 2020/11/01 05:00:00 2020/11/09 16:45:04 書評(19日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201031-OYT8I50048-T.jpg?type=thumbnail

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