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推し、燃ゆ 宇佐見りん著 河出書房新社 1400円

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◇うさみ・りん=1999年、静岡県生まれ。文芸賞受賞のデビュー作「かか」で今年の三島由紀夫賞を最年少受賞。
◇うさみ・りん=1999年、静岡県生まれ。文芸賞受賞のデビュー作「かか」で今年の三島由紀夫賞を最年少受賞。

SNSに映る青春物語

評・尾崎真理子(早稲田大教授、本社調査研究本部客員研究員)

 新しいメディアが広がるたび、新しい語り口の小説が追いかけるように派生する。SNSと同化して生きる本作の女子高生「あかり」から、まさしくそれは始まっている。

 <しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかっていない>

 冒頭、彼女が命懸けで推すアイドル「真幸まさき」が暴力沙汰ざたを起こしてネットで炎上する。すなわち「推し、燃ゆ」。何事にも不器用で忘れ物がひどく多いあかりだが、幼い頃見たピーターパン役の真幸と、ある日映像で再会して以来、彼と彼の見る世界を丸ごと解釈しようと決めた。あらゆるメディアから情報を収集し、全身全霊で明け方までブログを書き、インスタをあげ、<病めるときも健やかなるときも推しを推す>。陶酔と苦行の日々の中に彼女はいる。

 熱狂的なファンというのとはちょっと違う。推しを推すときだけあかりの背骨は立ち上がり、優しく賢いお姉さんキャラになる。めいっぱいバイトを入れるのも、1時間働けば生写真1枚、2時間でCD1枚、CD10枚で握手の権利が買えるから。24時間で消去されるトリビアルな話題ストーリーも不意のインスタライブも、絶対に見逃さない。母も姉もあかりの「オタク活動」に批判的で、遠巻きにしているだけ。海外赴任中の父親は「おっさん構文」で、女性声優に熱いメッセージをひそかに送っているらしい。憑依ひょういして演技して、バーチャルな世界を背骨に生きていく。そうしなければ生き難い時代なのか?

 炎上アイドルが自室から中継する打ち明け話を、画面越しに痛みと共に引き受け、魂の投稿をしても一瞬で均一の過去へと更新されていく。四六時中スマホをのぞき込みながら、ただうつむいて歩くあかり。21歳の作者は、粘り強く彼女を見守るように描く。そして――。

 これは季節も周囲もまともに見なかった多感なメディア少女が、目の前の風景を発見するに至る、一番新しくて古典的な、青春の物語だ。

無断転載・複製を禁じます
1644364 0 書評 2020/11/22 05:00:00 2020/11/30 16:24:59 「推し、燃ゆ」(16日、読売新聞東京本社で)=橘薫撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201121-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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