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科学哲学の新たな到来
評・三中信宏(進化生物学者)
評者は方々の大学や農業試験場で統計学を教えた経験が長い。統計学と聞けばすぐさま難解な数学や数式を連想して震え上がる受講者を前に、「統計学の
本書は、古典的な頻度主義統計学から始まり、ベイズ統計学、モデル選択論、深層学習、そして因果推論まで、主要なテーマを取り上げ、統計学と哲学との密接な結び付きを解きほぐす。統計学史上、頻度主義とベイズ主義とは長年対立してきた。認識論的に見れば、頻度主義とは可能世界を念頭に置く外在主義(判断主体の外に正当化の論拠がある)であるのに対して、ベイズ主義とは現実世界に足場を置く内在主義(判断主体本人が信念の論拠を有する)と喝破する著者に、評者は思わず膝を打ってしまった。
本書のもうひとつの特色は、現実世界を切り分ける「
近年は“データサイエンス”だの“ビッグデータ”だのとうわついたカタカナ語が飛び交うことしきりだ。しかし、統計学はもともと既知のデータから未知の仮説への橋渡しをする非
本書に取り上げられたトピックスをきっかけにして生産的な議論が大きく広がることを評者は確信している。個別科学と連携しながら発展してきた科学哲学がいま統計学と結びつくことで新たな時代の幕開きを感じさせる鮮烈な新刊だ。