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人新世の「資本論」 斎藤幸平著 集英社新書 1020円

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「脱成長コミュニズム」へ

評・瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

◇さいとう・こうへい=1987年生まれ。大阪市立大准教授。専門は経済思想、社会思想。著書に『大洪水の前に』。
◇さいとう・こうへい=1987年生まれ。大阪市立大准教授。専門は経済思想、社会思想。著書に『大洪水の前に』。

 気鋭のマルクス研究者が、未刊行ノートの読解をもとに新たなマルクス像を描き、それをもとに環境危機への処方箋を提示する。

 これまでマルクスの思想は「生産力至上主義」と「ヨーロッパ中心主義」を含むものとされてきた。しかし、『資本論』第1巻刊行後の「晩期」マルクスはエコロジー研究にいそしみ、資本主義が「人間と自然の物質代謝」に「修復不可能な亀裂」を生じさせることを見抜くに至る。そして定常型経済を組み込んだ非西欧共同体のメカニズムに着目するようになった。著者はこうした解釈を起点に、マルクスに「脱成長コミュニズム」の構想を読み込むのである。

 この構想は、物質代謝にかかわる労働・生産の民主的改革で経済活動を減速させることをコアとする。それだけでは抽象的だが、本書の真骨頂はむしろその後の展開だ。独自の資本主義分析で、この構想を出来る限り具体化しようと努めている。

 モノの有用性ではなく、商品価値を基盤として利潤を追求する資本主義は人工的に希少性や欠乏を生み出すメカニズムである。資本蓄積のために土地を囲い込んで希少にし、労働者に欠乏をもたらした「エンクロージャー」はその典型である。資本主義がこうして破壊してきた共有資源(コモン)を復興することで潤沢さを取り戻すことが可能となり、人間にとって本質的な経済活動へと注力することができるのだ。

 今日の気候変動問題への対処としては「持続可能な成長」を目指すべきという考え方が主流である。しかし、成長を前提とする限り、時間切れを回避できないと著者は言う。だから、物質代謝のあり方を見直し、脱成長を目指すべきというラディカルな主張が展開されるのである。

 現在世界中で広がりを見せる運動の広がりも興味深い。だが、これが本当に唯一の方途なのか。世界的危機のなかで、新たな社会のかたちを探求する人たちに一度手にとって検討してもらいたい一冊だ。

 

無断転載・複製を禁じます
1697227 0 書評 2020/12/13 05:00:00 2020/12/21 11:23:49 「人新世の『資本論』」(30日、読売新聞東京本社で)=橘薫撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201212-OYT8I50038-T.jpg?type=thumbnail

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